第89話 勝利のご褒美は……

 今回俺達がプレイするマップは一番シンプルなマップだ。

 特殊なギミックは特になくて、シンプルに綾奈にゲームを楽しんでもらいたくてこのマップをチョイスした。

 CPUの強さは弱いと歯ごたえがないと思い普通にした。

 放課後ということであまり時間をかけられないので、最短の十ターン勝負だ。

 いよいよゲームスタートのタイミングで綾奈が口を開いた。

「ねえ真人君。私が勝ったらご褒美がほしい」

「ご褒美?」

「うん。ダメかな?」

 確かに勝ったら何かあると勝負にも気合いが入るというもの。

 だから俺は綾奈の提案を二つ返事で了承した。

「もちろんいいよ。ご褒美の内容は考えてるの?」

「う、うん」

 途端に綾奈がもじもじし出した。何か言いにくいことでもお願いする気なのか?

「……ちゅう」

「え?」

「真人君とちゅうしたい」

 綾奈は俺の方を向き、俺の顔を上目遣いで見ながら言った。

「そ……」

 そんな事で良いの?と言おうとしてやめた。

 ゲームに勝ったご褒美に俺とのキスとか……可愛すぎだろ。

 それにさっきは「キス」って言ってたのに、今は「ちゅう」って言うのも反則的に可愛い。

 無性にキスしたくなってきたけど、ご褒美の意味がなくなるから我慢だ……!

「それくらいお易い御用だよ」

 俺は微笑み、綾奈の頭を撫でた。

「えへへ~」

 綾奈は気持ち良さそうに目を細め、頬を俺の首元に猫のように擦り付けてきた。

 そうだよな。俺達が初めてキスをしたのはついさっきなんだ。

 まだキスに慣れてないし、ご褒美に俺とのキスを選ぶのも納得だ。

 それに、好きな人とするキスは、どれだけ同じ時間を過ごした間柄であっても、特別じゃないキスなんてないのかもな。

「じゃあ、俺も勝ったらご褒美ほしい」

 いまだに頬を擦り付けてくる綾奈に俺は言った。

 このゲームをやり慣れている俺の勝率は綾奈に比べてかなり高い。

 でも、俺も綾奈にお願いしたいことはあるのでこの際だから言ってみようと思った。

 すると綾奈の身体は一瞬ビクッとこわばり、頬のすりつけをやめて、顔を真っ赤にさせていた。

「い、いいよ。何してほしいの?」

「膝枕」

「…………へ?」

「……綾奈に膝枕してほしい」

「…………」

 綾奈は顔の色を元に戻し俺の顔を少し驚いた表情で見てくる。というかその体勢で俺の顔をじっと見るのは首が疲れそう。

「……っ!」

 その瞬間、綾奈の顔が「ボッ」と効果音が出そうなほど勢いよく真っ赤になった。さっきの比じゃないな。

「あ、あー膝枕。う、うん。いいよ膝枕。してあげるよ膝枕!」

 明らかに動揺しているよな。一体何を想像したんだ?

「~~~~~~っ!」

 綾奈は正面を向いたかと思ったら両手で顔を隠した。

「うぅ~、これじゃ私がえっちな子みたいだよぉ」

 一体何を想像したのか、その独り言はしっかりと俺の耳にも届いたが、これは下手に追求したらご褒美がもらえなくなってしまいそうなので、俺は気にしないことにした。

 そうして、いよいよゲームがスタートする!

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