第88話 超密着な座り方

 それからしばらく綾奈がこれでもかというくらい甘えてきて、満足した綾奈は俺の部屋のテレビ台に置かれていたゲーム機を見ていた。

「ゲームする?」

「いいの?」

 もちろんいいに決まっているけど、こうも視線がゲーム機に行っていたら聞くしかないだろ。

 内心で苦笑しながら俺は立ち上がり、ゲーム機を起動する。

「綾奈って、こういうゲームした事ある?」

「ううん。やったことない」

 だと思った。綾奈がこういった遊びをするイメージがない。

「なら、やってみたいゲームはある?」

 そう言って俺は、持っているソフトの中から綾奈でも遊べそうなゲームを見繕って綾奈に見せた。

 レースゲームやすごろくパーティーゲーム、体感型のスポーツシミュレーションゲーム等々。

 綾奈は「う~ん」と唸りながら、ローテーブルに置かれたソフト達を眺めて考えている。その姿も可愛くてずっと見ていられる。

 やがて綾奈は一つのソフトを指さした。

「これ、やってみたい」

 綾奈が選んだのはすごろくパーティゲームだ。

 サイコロを振り出た目の数だけマップを進み、プレイヤー全員が進み終えるとランダムでミニゲームが選択されて、その勝敗によってコインが配られ、最終的にコインを一番多く獲得したプレイヤーが勝利となるゲームだ。

 ソフトをゲームハードにセットして、俺はローテーブルの近くに腰掛けた。

 すると、綾奈が何故か立ち上がった。

 どうしたんだろう?と思いながら見ていると、綾奈は俺の真ん前に、俺の後ろを向いて立った。

 俺の目の前には綾奈のお尻がある。

 そのまま綾奈は、あぐらをかいている俺の足の上に座った。

「あ、綾奈!?」

「えへへ。こういうの、やってみたかったから」

 そう言った綾奈の顔は赤くになっている。

 俺も突然の事でプチパニックになっている。

 綾奈のなんとも言えない甘くていい匂いが俺の鼻腔を刺激する。

 綾奈の背中の感触が俺の胸からお腹に伝わり、そして綾奈のお尻の感触が俺の足に伝わる。

 そして体育座りみたいに足を曲げて座っているので、綾奈の白磁はくじのように美しい足があらわになっていて油断するとそこに視線がいってしまう。

 いやこれは……中々に理性が溶けていく。

 ここでもし俺が後ろから抱きしめても綾奈はびっくりするだけで怒ったりはしないだろう。

 だが今は二人でゲームを楽しむ時間だ。俺の一時の衝動にのまれてる場合じゃない。

 綾奈の顔を見ると、「わー、キャラクターいっぱいで誰を選ぶか悩むね」と楽しそうにキャラクターを選んでいる。

 しかし、綾奈の頬は真っ赤に染まっている。いや、頬だけでなく耳までも赤い。

 恐らく、こういう座り方をしたかったのは本当なんだけど、いざやってみると想像以上に恥ずかしかった。といった感じなんだろう。

 俺から離れないので、恥ずかしさよりも、こうしていたい気持ちが強いのだろう。

 ここで俺が「恥ずかしいなら離れる?」なんて言ってしまえば、綾奈はしょんぼりしてしまうし、雰囲気がぶち壊しになってしまう。何より俺もこうしていたいので口にはしないでおいた。

 でも、それとは別にもう一つ気になることがあるので、俺は口を開いた。

「ところで綾奈」

「なーに? 真人君」

 綾奈は俺の顔を見る。至近距離なのですごくドキドキする。

「こ、この体勢だと、俺がコントローラーを持つと綾奈のお腹に手を置くことになるけど、いいの?」 

 今回ゲームで対戦をする。すごろくパーティゲームなので、すごろくパートは自キャラを操作していない時はコントローラーや手のひらを床に置けば問題ないし、それくらいの時間なら綾奈のお腹の上に置かずに宙に浮かせれば問題ないが、ミニゲームパートはどうしても集中してしまう為に、手の位置が下がってしまうだろうし、出来れば手をどこかに置いて操作したい。

 そしてこの体勢だと綾奈のお腹の上しかない。

 多分大丈夫だと思うけど、万が一綾奈が嫌がってはいけないので、念の為確認をとることにした。

「いいよ。遠慮しないで私のお腹を使ってね」

 予想していたとおり、綾奈が二つ返事で了承してくれた。

 この時の綾奈の表情が頬を赤らめた満面の笑みだったので、俺の心臓はさらに高鳴った。

「じ、じゃあ、失礼します」

 俺は一言ことわりを入れてから、ゆっくりと綾奈のお腹に、自分の両手とコントローラーを置いた。

 いつもこれよりすごいことをしているのに、いつも以上にドキドキするのは何でなんだろうな?深く考えても答えは出ないと思うので、俺は考えるのをやめてゲームに集中することにした。

 そうして俺たちは自分のキャラクターと対戦CPUの強さ、マップを選択してゲームがスタートした。



 ど、どうしよう……。

 真人君とくっ付いていたくて真人君の足の上に座ったけど、これ、思った以上にドキドキする。

 真人君はびっくりしていたけど嫌そうな素振りは全く見せていなくて、真人君もドキドキしているのが背中越しに伝わってくる。

 自分が操作するキャラクターを選んでいると、真人君に呼ばれたから真人君の顔を見たんだけど、予想以上に近くにあってドキッとした。

 少し顔を動かしたらキ、キス出来る距離だよぉ……。

 真人君が私のお腹に手を置いていいか聞いてきたので、私は即答で了承した。でも、即答したことを少し後悔した。

 ま、真人君に太っているとか思われないかな?

 今まで私は自分の体型維持の為にバランスを考えた食生活を送ってきた。

 運動は苦手だけど、軽いストレッチなんかも自分なりにやってきた。

 そして真人君を好きになってからは今まで以上にそれを頑張ってきたから、多分太いなんて思われることはないと思うけどやっぱり不安になる。

 そして、真人君の手が私のお腹に置かれると、ものすごくドキドキした。

 さっきもハグやキスはしたのに、それと同じくらいドキドキしてる。

 真人君のドキドキがまた背中越しに伝わってきたので、太いとは思われていない……はず。

 心臓はうるさいままだけど、こうやって真人君に包み込まれる感覚……すごく心地いい。

 これからもたまにお願いしてみようかな?

 それはまた今度頼んでみるとして、今は真人君とゲームを、そしてお家デートを楽しもう。

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