第77話 綾奈の愛情お粥作り
「よーっし!気合い入れて作るぞ」
リビングに下りた私は、改めて良子さんに断りを入れて、制服の上着を脱ぎ、シャツの袖を捲り、エプロンを拝借してキッチンで気合いを入れていた。
今回真人君の為に作るのは卵粥だ。
やっぱり胃も弱っていると思うから消化にいい物が一番だよね。
まずはお米とお水を鍋に入れて中火で煮立たせる。
煮立つのを待つ間に卵をかき混ぜてといておく。
そして煮立ったら、調理酒と塩、鶏ガラスープの元を鍋に投入して、火を弱火にしてかき混ぜる。
それからさっきといた卵を入れてさっとかき混ぜてから火を止める。
火を止めたら鍋に蓋をして五分くらい蒸らす。
五分経ったら蓋を開けて、上手くできたかどうかを確認するため味見。
う~ん。もうちょっとだけ塩を足しても良いかな?
「すっごく美味しそう」
出来上がった頃を見計らって、美奈ちゃんがキッチンにやってきた。
美奈ちゃんは私が作ったお粥を食べたそうにこっちを見ている。
「えっと……一口食べてみる?」
「食べる!」
即答された。
私は食器棚から小皿を取り出し、お粥を少しよそって美奈ちゃんに渡した。
「熱いから気をつけてね」
「はーい」
美奈ちゃんはスプーンでお粥を掬い、ふーふーと息を吹いてから口に運んだ。
ゆっくりと咀嚼している美奈ちゃんを、私はドキドキしながら見ていた。
飲み込んだ美奈ちゃんが驚いた顔で感想を告げた。
「……美味しい」
「本当?」
「うん。凄く美味しいよ!これはお兄ちゃんは胃袋掴まれるね」
美奈ちゃんにも好評な様で、安心して胸を撫で下ろした。
でもね美奈ちゃん。真人君が私の手料理を食べるのはこれが初めてではないんだよ。
高崎と風見の合唱部の合同練習の時、私達は山根君とちぃちゃんと四人でお昼を食べたんだけど、その時真人君が私のお弁当の中の卵焼きを見てて、それを食べた真人君が大絶賛してくれたんだよ。
あの時ちぃちゃんのせいで「あーん」ってした事は少し恥ずかしかったけどね。
「良子さん、台所を貸していただきありがとうございました」
私は良子さんにお礼を言った後、お粥が入った鍋とお玉、そして真人君のお茶碗と水をトレイに置き、それを持って真人君の部屋に戻った。
「真人君お待たせ」
真人君の部屋に戻ると、真人君は変わらず横になっていた。
「起きれるかな?」
私はトレイをベッドの近くにあったローテーブルに置いて、真人君を起こした。
彼の身体に触ったけど、熱のせいでやっぱり熱い。
上半身を布団から出して寒そうにしていたので、私は一度断りを入れてから真人君の観音扉式のクローゼットを開けて、厚手の上着をかけた。
「どう?寒くない?」
「うん。大丈夫」
「じゃーん。卵粥を作ってみました」
「おお~、凄く美味しそう」
真人君はそんな感想と共に唾を飲み込んだ。
熱はあっても食欲もあるみたいでそこは一安心。
私はお粥をお茶碗半分くらいまでよそうと、真人君のベッドに腰掛けた。真人君の顔が近くに来てドキドキする。
私は余計な考えをしないように内心で頭を振り、考えをやめる。
そしてお粥をスプーンで少し掬うと、お茶碗ごと真人君の口元に持っていった。
「はい、あーん」
「なっ!?……ごほっごほっ!」
突然の事で真人君が咳き込んでしまった。咳き込む時に私から顔を背けた真人君はやっぱり思いやりがある人だと思った。
「あ、綾奈さん!?」
「どうしたの?」
「いや、それ……」
「うん。あーんだよ」
「……いいの?」
「いいも何も、真人君風邪ひいてるんだから……それに、私達、恋人だから……変じゃないでしょ?」
「う、うん」
……って言ってるけど、内心は心臓がバクバクしていた。
覚悟が決まったのか観念したのか、真人君は口を開いたので私はお粥を真人君の口に運んだ。
ゆっくりと咀嚼する真人君。さっき美奈ちゃんは美味しいと言ってくれたけど、真人君の口に合ってるかな?
やがて飲み込んでから真人君も感想を口にしてくれた。
「……凄く美味しい」
「良かったぁ。まだあるから、焦らないでゆっくりね」
それからも私は真人君のペースでお粥を食べさせた。
体調を崩した夫を看病する妻みたいな感覚に、不謹慎かもしれないけど私は幸せを感じていた。
食欲がないかと心配していたけど、真人君は私が作ったお粥を完食してくれた。
「ごちそうさま。本当に美味しかった。ありがとう綾奈さん」
「ふふっ、お粗末さまでした。こちらこそ、全部食べてくれてありがとう真人君」
それから私は薬を真人君に渡して、真人君はそれを水で流し込んだ。
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