第78話 煽ってくる彼氏の妹
お粥を食べて身体が温まったのか、真人君は全身汗をかいていた。
これ、拭かないと気持ち悪いし、汗で身体が冷えてしまうよね。
コンコン。
そんな事を考えていると、扉からノックがして美奈ちゃんが入ってきた。
美奈ちゃんは、手に洗面器を持っていた。
「お兄ちゃん、そろそろ身体が拭こっか」
「あぁ、そうだな。……悪い」
「良いよ。それより早く服脱いで」
「へっ!?」
「わかった」
そう言うと真人君は、私が着せたコートを脱ぎ、それから上半身に身に付けていたジャージとTシャツを脱ぎ出した。
「ち、ちょっとま───」
私が言い終わる前に、真人君は上半身裸になった。
「じゃあ背中向け…………何やってるのお義姉ちゃん」
美奈ちゃんから何か冷ややかな声が聞こえてきた。どんな表情をしているのかわからない。
私は真人君が上半身裸になる直前に、自分の両手で目を塞いでいた。
「だ、だって……は、恥ずかしくて真人君を見れないから……」
男の人の裸なんて、小さい頃にお父さんと一緒にお風呂に入って以来見たことがないから。
それが私の彼氏でとにかく大好きな真人君のだと尚更恥ずかしくて見れないよ。
「見ないの?お兄ちゃんって結構いい身体してるよ」
「~~~っ」
私はセルフ目隠ししたまま、声にならない声を出しながら首を横に振った。
「本当にいいの? お兄ちゃん、高崎の文化祭の時のスピーチで言ってたけど、お義姉ちゃんとお近付きになりたくて今の肉体を手に入れたんだよ?」
「あぅ…………」
「お兄ちゃんも誰よりもお義姉ちゃんに今の肉体を見てほしいと思うんだけどな~」
声のトーンからして美奈ちゃんは明らかにこの状況を楽しんでる。
「おい美奈。あまり綾奈さんを煽ってや…………っくし!」
私と美奈ちゃんがそんなやり取りをしていると、身体が冷えてきたのか真人君がくしゃみをしてしまった。
「ごめんねお兄ちゃん。お義姉ちゃんは見ないみたいだから早く身体を拭く───」
「み、見るもん!」
私は勢いよくセルフ目隠しをやめて半ばやけになって真人君を見た。
私の視界に真人君の背中が映る。
筋肉がつきすぎていない、程よくガッチリした真人君の背中を見て、今度は私が熱を出したのではと思うくらい顔が熱くなる。
心臓の音もうるさくて、二人に聞こえてしまうのではと心配してしまう。
「どう?お義姉ちゃん。お兄ちゃんの身体」
「ふぇ!?……あ、いや、その…………い、良い、です」
私はあたふたしながらも、素直な感想を口にした。
「良かったねお兄ちゃん」
「あ、あぁ……えっと、ありがとう。綾奈さん」
「へっ!?……ど、どういたしまして」
私たちのやり取りを見た美奈ちゃんは、お湯が入った洗面器をローテーブルに置いて、タオルをお湯で濡らし、よく絞ってから、そのタオルを私に手渡してきた。
「はい、お義姉ちゃん」
「え?……えっ!?」
これってつまり、私が真人君の身体を拭くの!?
全く予想もしてなかった事に驚き、頭がパニックになる。
「じゃあ私はこれ、リビングに持っていくから」
美奈ちゃんは自然な動きで、鍋とお茶碗をのせたトレイを持つと、そのままドアの方へ移動した。
「ちょ、ちょっと美奈ちゃん!私───」
「じゃあお義姉ちゃん。お願いします」
そう言って美奈ちゃんは部屋から出ていってしまった。
部屋は再び、私と真人君の二人だけとなった。
「「…………」」
私は美奈ちゃんに渡されたタオルと真人君の背中を交互に見て未だにプチパニック状態になっている。
「えっと……綾奈さん、無理しないでいいよ。身体は自分で拭くから」
そう言って真人君は私が手にしていたタオルを取ろうとするけど、私の手は勝手に力を入れて真人君にタオルを渡さなかった。
「綾奈さん?」
「~~~っ」
正直まだ恥ずかしくて真人君の身体を見るのは照れてしまうけど、それでも私が看病したくてここまで来たんだから、例え美奈ちゃんに面白半分で託されたにしても、中途半端な事はしたくない。
「わ、私がやりますっ!」
私はそう言うと、時間が経って冷たくなってしまったタオルを再びお湯につけて強くしぼった。
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