第72話 彼氏へのお土産選び

 合唱コンクール全国大会から一夜開けた日曜日。

 カーテンによって遮られている窓、そのカーテンの隙間から漏れる朝日と外から聞こえてくる小鳥達の会話が目覚ましとなり、私は目を覚ました。

「んっ……んん~~!」

 上体を起こして背伸びをする。

 背伸びをしても完全に覚醒は出来なくて、若干寝ぼけたまま、私は枕元に置いていたスマホを手に取って時刻を確認する。

「六時半……ふわぁ~」

 時刻を読み上げると、大きな欠伸もつられて口から出てきた。

 自分の身体に目をやると、浴衣がはだけていてそこから少しだけ胸元があらわになっていた。

 布団をめくって下も確認すると、やっぱりはだけていて左足は太ももまで全てさらけ出していた。それどころかその奥の白い下着まで少し顔を覗かせていた。

 私は恥ずかしくなって、立ち上がってはだけた浴衣を直した。

 直し終えて布団に座ってからから、ふと昨日お風呂に行く前にお姉ちゃんに言われた言葉が頭に浮かんだ。

『そういう純白なのも良いけど、真人君を誘惑するのならもう少し大人な感じのもいいと思うわよ』

 私は白や水色、黄色と言った色の下着しか持ってなくて、黒や赤の下着は大人のイメージがあって、私が身につけてもきっと似合わないと思っていたんだけど。

「真人君も、そんな色の下着を付けたら喜んでくれるのかな?」

 自然とそんな言葉が私の口から溢れて、それに気づいて顔から火が出そうなほど熱くなったので、私は勢いよく首をぶんぶんと横に振って無理矢理思考を止める。

 な、何考えてるの私!?キスもまだしてないのにそんな下着を真人君に見せるような事態になるのはまだまだ先なのに……。

 隣の布団で寝ているちぃちゃんを見る。

 確かちぃちゃんが昨日のお風呂上がりで着けていた下着は黒だったはず。私と違ってそういった色の下着がよく似合うのが今になって少し羨ましく思う。

 時期が来たら、ちぃちゃんに相談してみようかな。

 そう思いながら私は顔を洗う為に立ち上がって移動した。


 午前七時半。

 朝食の時間になり、私達は揃って一階にある大部屋に移動して朝食を食べた。

 九時にチェックアウトなのであまり悠長にしてはいられなくて、食べるペースが遅い私はいつもより少しだけペースを上げて朝食を食べた。やっぱりいい所の旅館なので、夕食同様凄く美味しかった。

 朝食後は部屋に戻り歯を磨いて、制服に着替えて、荷物を鞄に詰める等して、準備完了したのは八時四十分だった。うん、余裕を持って準備が出来た。

 私はスマホを操作して、真人君に【おはよう。もうすぐ旅館を出ます】とメッセージを送って、その後におはようと朝の挨拶をしている猫のスタンプを送った。

 真人君は休みの日は八時くらいまで寝てると言っていて、もう九時近くになっていたので、メッセージを送って寝っているのを妨げる心配はほとんどないと思ってこの時間に送信した。

 すると十分くらいして、そろそろ部屋から出ようとしたタイミングでスカートのポケットに入れていたスマホが振動したので確認すると、真人君からメッセージが来ていた。

【おはよう。自由行動楽しんでね】

 そんなメッセージの後に、朝の挨拶をしている犬のスタンプが送られてきた。

 いつもより返信が遅かったな……。

 真人君は私からのメッセージには大体五分くらいで返信をくれるんだけど、今日はその倍の時間がかかった。

 昨日は少し夜更かしをしていて私からのメッセージの通知音で目が覚めたのかな?

 気にはなったけど、多分そうなのだと思うことにして、私は彼からの返事に【はーい♡】と返信して旅館を出た。


 自由行動の時間は正午までの三時間とあまり長い時間とは言えないので、私はちぃちゃんと事前に相談をして、今日は秋葉原に行く予定を立てて、そこで真人君と清水君、私達の大切な人への個別のお土産と、山根君と茜さんを含めた全員分、それから家族へのお土産を買うことにしていた。

 まず駅へ行って秋葉原駅までの切符を購入。私達の地元は交通系ICカードは使っていないので当然持っていない。

 そこから山手線に乗って秋葉原まで移動したんだけど、休日の朝という事もあってか、電車には多くの人が乗っていた。私達の地元とは人の多さが桁違いだった。

「わぁ~、すごい」

 秋葉原駅に到着して電車を降りると、何かのアニメのとても大きい看板がお出迎えしてくれた。

 アニメはそこまで詳しくないから分からないけど、真人君はこれを見たらテンション上がりそうだな。

 駅を出ると人の多さにもだけど、アニメショップや家電屋さんが至る所にあって、テレビとかでは見たことあったけど、実際に目にするとやっぱり違うなぁ。

「ホントに凄いね」

「うん」

 この光景に、私とちぃちゃんの語彙力は低下していた。

「あ、メイドさんがいる。凄く可愛いね」

「うん。てかスカート短すぎない?」

 周囲を見渡していると、メイドさんがビラを配っているのを見つけた。

 きっとああやってお客さんの呼び込みをしているのかな?

 そのメイドさんを近くで見ると、その辺のアイドルより可愛いのではと言える黒髪の美少女で、十一月ということもあり、上はコートを着ていたけど下は膝上十五センチ程の白のニーソックスを履いていて短いスカートの間からのぞく絶対領域が顕になっていた。

 ……真人君がいたらあのメイドさんのこと凄く見そうだな。

 名前も知らないメイドさんに彼氏の視線を取られるのを想像してしまって少しモヤッとしちゃった。

 それから少し歩くとアニメショップを見つけた。

 そのお店の名前が書かれた看板の横には、猫耳帽子をかぶった二人の美少女とうさ耳を着けた美少女、そして丸くて黄色い何かのキャラクターがいた。あの黄色いのは何なんだろう?

「ちょっと入ってみようよ」

「いいよ」

 ちぃちゃんとそのお店に入ると、程なくして気になるものを見つけた。

「これって……」

 そこには真人君が愛読していて、私も真人君の影響で読んでいて、先週の風見高校の文化祭で清水君のお姉さんの雛さんから頂いた制服のコスプレ衣装、それと同じ制服を着たヒロインが登場するライトノベルのグッズがお店の一角を占拠していた。

「ぽっぷあっぷしょっぷ?」

 その意味はわからなかったけど、そこにはライトノベルの表紙や口絵に使用されたイラストのアクリルのキーホルダーやスタンド、それにタペストリーなんかもあった。

 真人君から教えてもらったおかげで、グッズの名前は覚えていた。

「ちぃちゃん。真人君と清水君へのお土産、この中からにしない!?」

「そうだね。健太郎もこのライトノベルが好きって言ってたから、喜んでくれるっしょ」

 私達はお互いの大切な人へのお土産をここで買うことに決めて、私はアクリルスタンド、ちぃちゃんはアクリルキーホルダーを購入した。

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