第50話 代休の綾奈が制服を着て来たわけ

「ところで綾奈さん。いつからここにいたの?」

「えっ!?そ、それは……真人君の部活が終わる時間を見計らって来たから、十分前くらいだよ」

 完全に目が泳いでるよ綾奈さん。嘘下手かよ。

 そんな綾奈さんも可愛いと思いながらも俺は更に追及していく。

「で?本当は?」

「あぅ……本当はここの授業が終わったタイミングに来ました」

 言い逃れは出来ないと思った綾奈さんは観念して本当のことを話した。

 綾奈さんの言ったことが本当なら、二時間近くも待っていたことになる。

 十月も半分以上が過ぎて寒くなってきたし、陽も落ちるのが早くなり今は日没寸前だ。

 それよりも心配なのは、下校してきた男子が綾奈さんに声をかけたんじゃないかってことだ。

 千佳さんはいないみたいだし、綾奈さんほどの美少女がこんな所に一人でいたら、ナンパしてくる奴だっているはずだ。

 俺は途端に心配になり、綾奈さんに声をかける。

「そんなに前から!?寒かったよね?ごめん」

「真人君が謝ることじゃないよ。私が勝手に来て待ってただけだから」

「でも……、待ってる間、声かけられなかった?」

「少しかけられたけど、「彼氏を待ってる」って言ったらどこかに行っちゃった」

「……そっか」

 どうやらそこまでめんどくさいナンパにあわなかったようでほっと胸を撫で下ろす。

「それに、さっきまで清水君とお話してたから」

「えっ?健太郎いたの?」

「うん」

 あいつ帰宅部でいつもすぐに帰ってるのに、多分だけど、帰ろうとしたら校門で綾奈さんを見かけて、俺の部活が終わるまで話し相手になってくれたのだろうな。

「待ってる間に清水君と色々お話したよ。学校での真人君の事とか、ちぃちゃんの事とか色々。そしたら清水君が、そろそろ合唱部の部活終わるからって言って帰っていっちゃった」

「真人、ちゃんと健太郎にお礼言っとけよ」

 一哉は言った。

 もちろん綾奈さんをナンパから守ってくれたことは感謝してるから、後でメッセージを送って明日も直接言うつもりだ。だがそれより……。

「一哉は帰らないのか?」

 他のメンバーは帰って行ったのに一哉だけずっといるからちょっと気になったので聞いてみた。

「俺を邪魔者扱いするんじゃない!茜を待ってるんだよ」

「あぁ、なるほど」

 茜は今日部活だったのか。ならそろそろバレー部も終わる頃だろうと思い、体育館の方を見ると、ちょうど一人の女子生徒がこちらに向かって走ってきていた。

「カズくんお待たせー……って、綾奈ちゃん!?」

「部活お疲れ様です。茜さん」

 綾奈さんが笑顔で茜を労う。

「えっ?何で綾奈ちゃんがここに?」

 俺は綾奈さんがここにいる理由を茜に教えた。

「なるほどね。それで綾奈ちゃんはどうして制服なの?」

「へっ!?それは……」

 綾奈さんは途端に口ごもり始める。そんなに言いにくい理由なのかな?

「ま、真人君と付き合って最初の制服デートを早くしたかったから……」

「え?」

 顔を真っ赤にして制服を着てきた理由を話す綾奈さん。

 その姿も、制服を着てきた理由も可愛すぎて、俺の顔も熱くなった。

 確かにこれまで制服で下校したり寄り道したりしてきたけど、今日はもうだいぶ暗くなってきているのでただ帰るだけだ。ただ帰るだけなのもデートといえるのだろうか?

 それを綾奈さんに聞くと、綾奈さんは、

「デートって思ってたら、ただまっすぐ帰るだけでもデートだよ」

 と言ってきた。

「へぇ~、愛されてるねぇ真人。それに二人は学校違うから、私たちみたいに休み時間に会いに行くなんてことも出来ないからね」

「そうなんです!今日家にいる時も真人君のことばかり考えちゃって、早く真人君の部活終わらないかなーってずっと思ってました」

「綾奈ちゃんも中学からずっと真人のこと好きだったんだよね?それで昨日のあのスピーチからの付き合いスタートだから嬉しさも相当でしょ?」

「はい。昨日から真人君への想いが溢れて止まらないんです」

 女子二人の恋バナ、というより俺の話に花が咲いて、聞いていると嬉しくもあるけどやっぱり恥ずかしい。

「よかったね真人」

「……まぁ、な」

 ここで茜が突然俺に話を振ってきて、いい返しが思いつかない俺はぶっきらぼうに答えてしまう。

「照れてるよ綾奈ちゃん」

「ですね。照れてる真人君、かわいいです。それに、握っている手に力が込められてます」

「茜ももう勘弁してくれ。それと綾奈さんも実況しないで」

 こうも言われると嬉しいんだけど流石に恥ずかしすぎる。

「……むぅ」

 するとさっきまで上機嫌で茜と話していた綾奈さんから突然不満の声が漏れた。一体どうしたのだろう。

「じゃあ俺は茜を送ってから帰るから。二人ともまたな」

「じゃあね二人とも」

「わかった。また明日学校で」

「茜さん、山根君。またね」

 その後、別れの挨拶を交し、俺と綾奈さんは駅に向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る