第1節 交際後初の放課後デート

第48話 交際スタートから一夜明け……

 高崎高校の文化祭から一夜開けた月曜日。

 俺の通う風見高校は今日も通常通り授業が行われる。

 昨日の事が嬉しすぎて中々寝付けなかったので軽い寝不足だ。

「ふぁ~あ」

「大っきい欠伸だねお兄ちゃん」

 欠伸をすると、美奈がリビングにやってきた。

「あぁ、昨日あまり寝付けなくてな」

「気持ちわかるけどね」

 昨日、綾奈さんとお付き合いを始めてあれだけ手を繋いだりハグをしたのだけど、未だにあれは全部夢なのじゃないのかと思ってしまって、現実味に欠けていた。

「お母さん聞いてよ。お兄ちゃん昨日彼女が出来たんだよ!」

「え!?そうなの真人」

 美奈の声に驚きの声を上げたのは、俺と美奈の母親、中筋良子。

 年齢は四十代前半、身長百六十センチほどで少しふくよかなどこにでもいる普通の主婦だ。

 普段は温厚なんだけど、怒ると怖い。

 母さんがキッチンで洗い物をしていたけど、それを中断して俺のところにやってきた。

「やったわね真人。それで、相手の人はどんな子なの?」

 母さんがめっちゃぐいぐい来てる。やっぱり女性はいくつになっても恋バナ好きだよな。

「すっっごく可愛い人だよ。性格もめっちゃ良くてね!……ほらこの人」

 俺が母さんの勢いにたじろいでいると、美奈が代わりに答えて、スマホで撮った綾奈さんとのツーショト写真を母さんに見せた。いつの間に写真撮ったんだよ。……ゲーセンの時だなこれ。

「あらホント、凄く可愛らしくて良い子そうじゃない!」

 綾奈さんの顔を見た母さんは目を見開いて驚いている。

 多分自分の息子がこんな可愛い人を彼女にする‪ことが……いや、それ以前に俺に彼女が出来ると思っていなかったからだろうな。

「真人、その子に愛想つかされないようにね」

「それ昨日美奈にも言われた!」

「昨日はそう言ったけど多分大丈夫だよお母さん。綾奈さんはお兄ちゃんにベタ惚れだし、お兄ちゃんが浮気しても許しそうだよ」

「浮気なんてするわけないだろ!」

 美奈がとんでもないことを言うので、俺はすぐさま否定して美奈の頭を軽く叩いた。

 と言うか、億が一浮気なんてしようものなら千佳さんに間違いなく殺される。

「あいたっ!それは冗談だけど、綾奈さんがベタ惚れって所は否定しないんだ?」

 美奈がニヤニヤしながら言ってくる。もう一度しばいてやろうかな。

「……まぁ、昨日のことがあるからな」

 俺はそう言うと、昨日のことを思い出して顔が赤くなり、そっぽを向いて右手の甲で口を隠す。

「お兄ちゃん照れてる~」

「昨日って、一体何があったの!?」

「だーうるさいうるさい!ご馳走様」

 なおも激しい追及をしてくる我が家の女性二人に、俺は無理やり会話を終わらせて食器を片付けた。


 母さんと美奈の追及に若干疲れながらも登校していると、歩道橋の所で、綾奈さんと松木先生の祖母、幸ばあちゃんこと新田幸子さんを見つけた。

「幸ばあちゃん、おはようございます」

「あら真人君。おはよう」

 俺は笑顔で挨拶を返してくれた幸ばあちゃんの荷物を持って一緒に歩道橋の階段を上る。

 歩道橋のちょうど真ん中くらいに来たところで、俺は昨日のことを幸ばあちゃんに報告するべく口を開いた。

「幸ばあちゃん、俺から少し言いたいことがあるんです」

「どうしたの?そんなに改まって」

「実は、幸ばあちゃんのお孫さんと……綾奈さんとお付き合いをすることになりました」

「まぁ……まぁまぁ!おめでとう真人君!」

 そう言うと、幸ばあちゃんの顔がみるみる笑顔になり、俺と綾奈さんの交際に祝福の言葉を送ってくれた。

「綾奈にもおめでとうを言わないといけないわね。うふふ。真人君も私の孫になるのかしら?」

 幸ばあちゃんはまだ興奮冷めやらぬ状態でそんなことを言ってきた。

「ま、まだそれは気が早いですよ」

「まだと言うことは、いずれそうなる予定なのよね?」

「……まぁ、否定はしませんよ」

 俺は赤くなり幸ばあちゃんの問いに頷く。

「二人の結婚式、楽しみだわ」

「だから気が早いですってば。でも、まだそうなるかはわかりませんが、晴れ姿を見てほしいですから、幸ばあちゃんも元気でいて下さいよ」

「もちろんよ。麻里奈と翔太君、綾奈と真人君の子供を見るまでは何がなんでも元気でいるって決めてるもの」

 普段穏やかな性格の幸ばあちゃんだけど、パワフルな一面もあるから、本当、いつまでも元気でいてほしいな。


 それから幸ばあちゃんと別れ、学校に到着し教室の前まで来ると、何やら廊下に人だかりが出来ていた。

 よく見ると、男子は数名に対し、女子は十数人いて、皆して教室の中を見て黄色い声を上げている。

 一体何があるんだと思いつつ教室に入ると、俺は全てを理解した。

 廊下で皆が見ていたのは俺のオタク友達、清水健太郎だった。

 そう言えば昨日の高崎の文化祭で長かった髪をバッサリ切った姿を見たんだった。

 教室を見渡すと、クラスの連中も健太郎のことをチラチラと見ていた。

 そりゃあ、今まで目立たず大人しかった陰キャオタクが突然イメチェンをして登校をして、髪に隠された顔はマジのイケメンだったのだから、そうなるのも仕方ないか。

 始業チャイムの時間が迫ってきたけど、俺は健太郎に声をかけた。

 ちなみに一哉は既に健太郎と話した後なのか、席に着いて授業の準備をしていた。

「おはよう健太郎」

「お、おはよう真人」

 やはり周囲の視線が気になるのか、健太郎は落ち着かない様子でそわそわしていた。

「やっぱり突然イメチェンしてきたらこうなるわな」

「うん。でも真人が変わったみたいに、僕も変わらなきゃって思ったんだ。千佳さんの隣に自信を持って立てるように」

「大丈夫。あの千佳さんがお前を選んだんだからもっと自信持てよ」

「ありがとう真人。でも、真人もけっこう見られてるよ」

「えっ?」

 健太郎の言葉で周囲を見渡すと、確かに健太郎だけじゃなく、俺を見てくる生徒もちらほらいた。

「多分昨日の真人のスピーチを聞いた人がいたんだよ」

「……マジか」

「多分色々聞かれるんじゃないかな?」

 健太郎がそう言った通り、休み時間や昼休みの度に、昨日の俺のスピーチを聞いていた奴らから質問攻めにあった。

 あのスピーチの感想も少しはあったけど、あの告白は誰に対してのものだったのか、その相手とはどうなったのか等がほとんどだった。

 寝不足に加え、朝の美奈と母さんの質問、そして学校の連中の質問攻めに俺は見るからに疲れていて、その日は授業も部活もあまり身が入らなかった。

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