第45話 綾奈の告白

 あぁ、夢じゃないんだ。

 真人君が、私の大好きな人が、私の名前を言って、私の目を見て、すごく真剣な表情で私に告白してくれた。そんな表情も凄くかっこいい。

 もうずっと心臓の音がうるさい。

 顔が熱い。

 顔だけじゃなくて、私の身体、その全身が熱い。

 私の中の真人君への想いが止めどなく溢れてくる。

 目の前の人が愛おしくて仕方がない。

 ……もう、この想いを我慢しなくて良いんだよね?

 真人君は勇気を出して私に告白してくれた。

 それも二回も。

 今度は、私がそれに応える番。

 私の想い、全部伝えるよ。


「ありがとう真人君」

 そう言って綾奈さんは目を閉じて口角を上げ、視線を正面に戻した。

 それから数秒の後、綾奈さんはゆっくりと目を、そして口を開いた。

「私ね、実は中学三年の時から好きな人がいるの」

「っ……そう、なんだ」

 綾奈さん、去年から好きな人がいたんだ。

 俺と一緒にいる時、凄く楽しそうに笑ってくれてたから、もしかしたら綾奈さんも俺と同じ感情を俺に抱いてくれてるなんて都合のいい事を考えなかった訳では無いけど、違ったみたいだ。

 俺は何とか平静を装って、綾奈さんの話を聞く。

「その人の事を好きになる前は、正直言ってその人の事はあまり良く思ってなかったんだ」

「……そうなんだ。何かきっかけがあってその人の事を好きになったの?」

「うん。去年の秋頃、その日はいつもより遅く家を出たんだけど、歩道橋の上で偶然その人を見かけたの。よく見たら、その人は高齢の女性の荷物を持って一緒に歩道橋を渡っていたんだ」

「……え?」

 それってもしかして……と思ったけど、綾奈さんの話は続く。

「その事がきっかけで少しずつその人の事を意識し出してね。そしたらその人は授業も真面目に受けていたし、教室や廊下に落ちていたゴミを自分から拾ってゴミ箱に入れていたし、私が知らなかっただけで、その人は凄く優しくて誠実な人だったの」

「……」

 まさか、そんな……。

「もっとその人のことが知りたくて、何度か話をしようと思ったんだけど、勇気が出なくて……結局そのまま中学を卒業して、別々の高校に進学しちゃったんだ」

 いや、これは、もしかして……。

「高校に入ってからもね、その人の事は忘れられなくて、会えない寂しさと比例して、好きって気持ちもどんどん強くなっていったの。夏休みにあった合唱コンクールで偶然その人と再会して、初めてその人とお喋りすることが出来て、あの時の嬉しさや胸のドキドキは今も覚えてる」

 そこまで話して、綾奈さんは再び俺に向き直した。

 瞳は潤んでいたけど、頬が朱に染まり、とても美しい笑顔だった。

「何とかまた会えないかなと思っていると、ちぃちゃんが「二学期からボディーガード頼めばいいじゃん」って言ってくれて、二学期の始業式の後にその事をお願いしたら、その人は快く引き受けてくれて、凄く嬉しかった」

「…………」

「真っ直ぐ家に帰ったのも、本屋さんに寄ってライトノベルの話をしたのも、私に言い寄ってきてた先輩から私を守ってくれたりしたのも、ゲームセンターに行って一緒に遊んだのも、図書館で勉強会をしたのも、合同練習の帰りに初めて私の事を名前で呼んでくれたのも、今日の私の衣装を「可愛い」って言ってくれたのも全部全部……あなたといた時間の全てが、私のかけがえのない大切な宝物なの」

 そう言うと綾奈さんは俺の手を取り、あの時駅の構内でしてくれた様に、自分の両手で俺の手を包み込んだ。

 俺は驚いてその手を見ると、少しして水滴が手に落ちてきた。

 綾奈さんの顔を見ると、微笑んで涙を流していた。

「だから、私も、あなたとこれからもずっと一緒にいたい。そして、二人で色んな思い出を作って、いきたい……っ、だから……」

 綾奈さんの目から涙が止めどなく溢れて止まらない。

「中筋真人君。あなたの事が、心の底から、大好きです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 綾奈さんが俺に思いを告げてくれた瞬間、俺は綾奈さんを抱きしめていた。

「うん……うんっ!」

 俺の目からも涙が溢れ、綾奈さんは抱きしめた俺の背中に手を回した。

「真人君、大好きだよ」

「俺も、大好きだよ綾奈さん」

 俺たちは人がいなくなった中庭でお互い涙を流しながらしばらく抱きしめあった。

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