第44話 真人の告白

 大告白祭はその後も行われた。

 全十数人の参加者のうち、俺のように告白した人は全体の半数に及んでいた。

 そしてそのまた半数が綾奈さんに告白していた。

 この大告白祭ではルールがあって、想い人に気持ちを伝えてから、一分以内に告白された人がオーケーしたらカップル成立。

 逆に断られたり、その人から一分間何のリアクションもなければ告白失敗となる。

 俺は相手の名前を言わなかったし、宮原さんに綾奈さんがもし動こうとしたら引き止めて欲しいと頼んでいたのでスピーチを終えてすぐに降壇した。

 オッケーでもノーでも、その時リアクションしてくれたら良いのだけど、一分待って何もなかったら何ともいたたまれない空気になってしまう。

 当然だけど、綾奈さんへ告白した奴らは、一分間の沈黙の後、とぼとぼと降壇していったことだろう。


 現在の時刻は十七時五十分。

 俺が綾奈さんに指定した待ち合わせ時間まで後十分。

 文化祭は既に終わり、後夜祭の準備をする教職員や生徒、後夜祭の時間まで後片付けをする生徒達で慌ただしい。

 十月も後半という事もあり、陽は殆ど沈んでいて、中庭のベンチに腰掛ける俺を近くの照明が照らしている。

 綾奈さん、来てくれるだろうか。

 祈るように綾奈さんが来るのを待つ。

 そして時刻は十八時になった。

 すると、俺に近づいてくる人影が一つあった。

 ゆっくりと俺に向かって歩を進め、照明が照らしたその人物は、俺の想い人、西蓮寺綾奈さんだった。

 俺は立ち上がり、綾奈さんが傍に来るのをじっと待つ。

 やがて綾奈さんが俺の傍に来て、向かい合うように立つ。

 綾奈さんの表情は穏やかだけど、どこか緊張している面持ちで、目は一目でわかるほど泣き腫らしていて、それを見て俺の胸にチクッとした痛みが伝わった。

「綾奈さん、来てくれてありがとう」

「……うん」

 そう言って俺は綾奈さんにベンチに座るよう手で促し、綾奈さんが座ったのを見て俺もベンチに腰掛ける。

「俺のあのスピーチは、聞いてくれた?」

 少しの沈黙の後、俺はすぐに本題を切り出した。

「うん。ありがとう真人君。嬉しかった」

 綾奈さんが俺の目を見て言う。

 笑顔ではなかったけど、ちゃんと伝わったようで一安心だ。

「でも、だからこそ聞かせて。あの時真人君が抱きしめた人は誰なの?」

 綾奈さんの口から当然の質問が出てきた。

 俺は間を開けずにその質問に対して答えた。

「彼女は東雲茜。前に言っていた俺の幼なじみで一哉の彼女だよ。あの時抱きしめていたのは、茜が人と思い切りぶつかって倒れそうになる茜の手を勢いよく引いてああなったんだ」

「じゃあ、先週ショッピングモールに一緒にいたのも?」

 あのショッピングモールに綾奈さんもいたのか……松木先生にも見られてたみたいだし、家族で買い物でもしていたのかな?

「茜だよ。今週一哉の誕生日があってね、プレゼント選びに付き合わされたんだよ」

「っ!……そう、だったんだね」

 綾奈さんは驚いた表情をしたと思ったら、今度は落ち込んだ表情になり、俯いて消え入りそうな声を発した。

 かと思ったら今度は勢いよく顔を上げて俺の目を見る綾奈さん。

「その……ごめんなさい!私ったら、酷い勘違いをしちゃって」

「い、いいんだよもう」

 頭を深く下げて謝ってくる綾奈さんを必死に宥める。

 しばらく謝り続けていたけど、落ち着きを取り戻した綾奈さん。

 顔は少し伏し目がちで、しょんぼりしている。

 そして再び訪れる沈黙。

「綾奈さん」

 気まずさから、なにか喋らないとと思い、俺はすぐ隣に腰掛けている大切な人の名を呼んだ。

「何?」

 何喋ろうかなんて考えてなく、完全な見切り発車。

 綾奈さんは俺の瞳を真っ直ぐに見つめている。

 頬は少し赤みがかっていて、瞳もうるんでいた。

 そうだよ、何を話すかじゃない。

 話す内容なんて、最初から決まっているじゃないか。

 俺は目を閉じて深呼吸をしてから、真剣な表情で綾奈さんの顔を真っ直ぐに見つめる。

「今日屋上で言った言葉は俺の本心です。俺はこれからも綾奈さんと一緒の時間を過ごしたい。綾奈さんとずっと一緒にいたい。これからも、二人で一緒の時間を共有して楽しい事も、辛い事も全部綾奈さんと分け合いたい。だから……っ!」

 俺はここで下を向き一呼吸置いて綾奈さんの目に視点を戻した。


「西蓮寺綾奈さん。あなたの事が好きです。俺と、付き合ってください!」


 俺は綾奈さんの目を真っ直ぐ見て、綾奈さんの名前を言って、本日二度目となる告白をした。

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