第4節 対峙と出会い
第18話 遅刻寸前の理由
「ギリギリセーフ!」
西蓮寺さんと初めて放課後デートした日から二週間が経過した。
その週の金曜日の朝、俺は始業チャイムが鳴る一分前に慌てて教室に入った。
何とか遅刻は免れてほっとする。
ショートホームルームが終わると、俺の席に一哉と健太郎がやってきた。話題は当然俺が遅刻ギリギリに登校してきた理由についてだ。
「真人、今日はいつにも増してギリギリだったな」
「いつも遅刻ギリギリに登校して来る奴みたいに言うんじゃない」
「でも、今日は本当に危なかったね。何かあったの?」
今朝の遅刻寸前の原因、それはたまに会っている幸ばあちゃんのお手伝い……ではなく、今日は本当に寝坊してしまった。
いつもは俺の方が起きるの早いのに、美奈に起こされるのは何時ぶりだっただろう?もしかしたら高校に入って初めてかもしれない。
「どうせまた西蓮寺さんのストーキングでもしてたんだろ?」
「えっ?そうなの真人?」
「またって何だよまたって!?そんな事一度もした事ないわ!」
いつぞやのネタをまた使ってきた一哉。
健太郎も本気にするんじゃない。
「それに、たまに一緒に帰ってるんだから、ストーキングするくらいなら登校も一緒にしようってお願いしてる」
「違いない」
一哉はそう言いながらからからと笑う。
「じゃあ、今日の原因って?」
「単に寝坊しただけだよ」
「珍しいな。高校に入って真人が寝坊したって聞いたの初めてかもな」
「妹にも言われたよ」
「まぁ、寝坊した理由は十中八九西蓮寺さん絡みだろ?」
「……黙秘権を使わせてもらう」
「ほらな」
「あはは」
一哉と健太郎はお互いの顔を見て苦笑し、肩を竦める。
確かに西蓮寺さん関連なのは間違いない。
俺が寝坊した理由は、昨夜の夢に西蓮寺さんが出てきたからだ。
ただの夢ではなく、俺と西蓮寺さんがイチャラブしている夢。その夢があまりにも心地よくて、ずっと見ていたいと思った結果、美奈に叩き起される事になった。
ただ、本当の事とはいえ、こうも決めつけられるのも面白くないので、俺は少し抵抗してみることにした。
「いや、勉強やゲームを遅くまでしていたとか思わないのか?」
「思わん」
「ぐっ……」
即答かよ。
「だったら理由は西蓮寺さんと遅くまで通話かメッセージのやり取りをしていたって考えるのが自然なんだよ」
マジかこいつ。ほとんどヒント出てないのにここまで読んでくるのか……俺ってそんなにわかりやすい?
「いや、でも西蓮寺さんも真面目な人だから、彼女もそういう所はきっちりしてそうだな」
そんな事を思っていると、一哉は顎に手を置き、さらに思考する。
「……夢か。お前の夢の中に西蓮寺さんが出てきたとか?」
「……」
こんな短時間に正解を導き出され、俺は二人から顔を背ける。俺はそこまで単純な男なのか……。
「お前はエスパーなのか!?ピーナッツが好きで人参嫌いなのか!?」
「ん?ピーナッツも人参も普通に好きだぞ?」
「ぷっ」
一哉は俺のツッコミに素で返して、健太郎は小さく笑う。流石は健太郎、このネタを知っていたようだ。
「まぁ、何にしても、俺はお前の真面目さを知ってるからな」
「たまに遅刻しそうな奴に真面目とかおかしいだろ」
「まぁ、それも何かしら理由があるんだろ」
「凄いね一哉。真人の事をよく理解してる」
俺達のやり取りを見ていた健太郎は驚きの声を上げる。
「伊達に小学校からの付き合いじゃないって事だよ」
「俺は一哉の事そこまで理解してないないと思うがな」
「お前は真面目で単純だから」
あーやっぱり俺は単純なのか。分かってはいたんだけど、こう人から言われると複雑な気持ちになるな。
そんなやり取りをしているとチャイムがなったので、一哉と健太郎は自席に戻って行った。
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