第17話 綾奈と千佳の通話

 夕食を終えて自室で勉強をしていると、ベッドの傍のローテーブルに置いていたスマホが着信音が流れた。

 スマホを手に取り、画面を確認すると、ちぃちゃんからの着信だった。

 私は通話ボタンをタップする。

『もしもし綾奈?おつかれ~』

「こんばんはちぃちゃん。どうしたの?」

 軽く挨拶を交わした後に、私は要件を聞いた。大体の想像はつくのだけれど。

『そりゃあ、今日の綾奈の放課後デートが気になったからね』

 予想通りの答えが帰ってきて、私は照れ臭さから若干苦笑する。

『で?どうだった!?』

「緊張したけど、すごく楽しかったよ」

『おぉ!やったね。でも……』

 今日の放課後デートが成功したことにちぃちゃんも自分の事のように喜んでくれている。

 つくづく私は友達に恵まれていると思う。

 でも何か言いたいことがあるのか、少しの沈黙の後にちぃちゃんは口を開いた。

『本屋に向かう途中で、中筋が頭を下げてなかった?』

「へ?」

 それは中筋君が私と下校出来て嬉しいと言ってくれた時の事だ。

 私はそれを聞いて凄く嬉しかったけど、中筋君はその事で私とちぃちゃんの信頼を裏切ってしまっまたと思い込んで謝罪して来た。

 そんな事より……。

「な、何でちぃちゃんがその事知ってるの!?」

『いやぁ、実はあたし二人が本屋に入るまでついて行ってたし』

 ちぃちゃんは普通のテンションで当然の様に言ってきた。

「え、嘘!?」

『ホントホント。綾奈は中筋の事めっちゃ信頼してるけど、あたしはやっぱり少し心配だったから、二人に気づかれない距離からついて行ったんだよ。まぁ、その後は二人とも仲良さげに話してたから、これ以上見てるのは野暮かなと思って家に帰ったんだけど』

 ……全く気付かなかった。と言うか、確かちぃちゃんは私達と別れた後、駅から出ていったはずなのに。

「待って。ちぃちゃんは私達と別れて駅の外に出たよね?なのに何で後を付いてこれたの?」

『確かに駅から出ていったけど、実は出入口の傍で隠れてて、二人が移動したのを見計らってあたしは二人とは違う車両に乗り込んだわけ』

 そうだったんだ。てっきり用事があって、そこに向かったのだとばかり思ってた。

『で?本屋で何かあった?』

 声だけでちぃちゃんのテンションが高いのがわかる。

 私の事を心配してくれてるのは分かるんだけど、どこか面白がって聞いている節も見て取れる。

 でもちぃちゃんは私の初恋を応援してくれている人だから、私は書店であった出来事(同じライトノベルを買ったことや、買った少女漫画内容を聞かれた事)を話した。

『なるほどねぇ。良い感じじゃんか!ライトノベルで距離が縮まった感じがする』

「うん。ライトノベルの話題は私も緊張しないで感想を言いあえたから、たくさんお話出来て嬉しかった」

 今日の事をまた思い出して自然と口角が上がる。

『それで?その帰り道でちゅーでもした?』

「ふぇ!?」

 唐突にちぃちゃんからとんでもない発言が飛び出て、私は一気に顔を真っ赤にして、素っ頓狂な声をあげた。

「キ、キ、キスって……まだ付き合ってもいないのに」

『あはは、冗談だって。まぁ、中筋が付き合う前からそんな事をする軽薄なやつだったら冗談抜きでぶっ飛ばしてるけどね』

「中筋君がそんな事しないってちぃちゃんもわかってるでしょ?」

『まあね』

 中筋君は誠実な人。ちぃちゃんもそれは分かってくれてるはず……と思ったんだけど。

『あいつにそんな度胸ないしね』

 まだその認識には至ってなかった。少し悲しい。

 それから私は、中筋君が私の自宅まで送ってもらうように頼んだ事、家の前で指切りした事を話した。

『頑張ったね綾奈』

「ありがとう。少しでも中筋君と一緒に居たかったから思い切って頼んでみたけど良かった」

 そう言って中筋君と指切りを交わした小指を見る。またその時の感覚を思い出して目を細める。

『しかし、綾奈にこれだけ想われてる中筋は幸せ者だね』

「大袈裟だよちぃちゃん。それに、あの時はそう見えなかったけど、もしかしたら中筋君は本当は迷惑に思ってるかもしれないし」

『綾奈にこれだけ想われて迷惑なんて思う奴の方が少ないでしょ?それに中筋は綾奈と一緒に帰れて嬉しいって言ってくれたんでしょ?中筋の事が好きなら、それを信じてやりなよ』

「西蓮寺さんと下校出来て嬉しい」と、中筋君はそんな風な事を言ってくれた。そんな好きな人の言葉を信じないと中筋君に失礼にあたる。

 親友の言葉を聞いた私は、そう思った。

「ありがとうちぃちゃん」

『どういたしまして。それじゃああたしはそろそろ寝るね』

「うん。聞いてくれてありがとうちぃちゃん」

『来週も頑張って。おやすみ~』

「おやすみ、ちぃちゃん」

 親友との通話が終了してスマホの画面を見ると、メッセージアプリに通知が来ていた。

 誰からだろうと思い、差出人を見ると、中筋君からだった。

【今日は本当に楽しかったです。来週も楽しみです】

 畏まったメッセージに思わず笑みがこぼれる。

 メッセージを送るのに少し緊張したのかな?そう思うと少し申し訳ないけど嬉しくなった。

【ちぃちゃんと電話してました。メッセージありがとう。私も凄く楽しかったよ】

 私は今日の感想と猫のスタンプを送った。

 普段ちぃちゃんや他の人とメッセージのやり取りをする時は普通なのに、これが初めてだからなのか、好きな人とこうしてメッセージでやり取りするのってドキドキする。

【来週、早く来てほしいね】

 気持ちが溢れてしまったのか、ちょっと大胆なメッセージを送ってしまった。

 だ、大丈夫。中筋君なら引いたりしない……よね?

 しばらくすると返信が来た。

【俺も同じ気持ちだよ】

「っ……」

 中筋君から送られてきた文字を見て私の身体が熱くなるのを感じる。

 中筋君も私と同じように思ってくれてるんだ。

 その事がとにかく嬉しくて、私は自然と目を細める。

【ふふ、嬉しいな】

 嬉しすぎて気持ちそのまま文字にする。……文字で「ふふ」って送るの変じゃないよね?

【改めてだけど、今日は本当にありがとう。また来週ね。おやすみなさい】

【うん。おやすみなさい】

 おやすみを言い合って、メッセージは終了した。

 もう少し、出来れば声を聞きたかったけど、もう遅い時間だし中筋君に迷惑がかかるので我慢することにした。

 しばらくして私は布団に潜り、眠りについた。

 中筋君の夢が見れる事を期待して……。

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