第16話 夜、一哉との通話

 その日の夜、夕食を済ませ、自室でラノベを読んでいると、一哉から電話がかかってきた。内容はもちろん今日の西蓮寺さんとの下校の内容だ。

『どうだった?好きな人との初の放課後デートは』

「緊張したけど、凄く楽しかった。時間があっという間に過ぎてったよ」

『その口ぶりだと、成功したみたいだな』

「まあな」

 今日の放課後の出来事を思い返しながら一哉と話しているけど、これといって失敗はなかったと思う。

『で?西蓮寺さんの連絡先は聞けたのか?』

 当然、それも気になるよな。何せ昨日は聞き忘れたわけだし。

「あぁ、聞けたよ」

『やったな。これで西蓮寺さんといつでもやり取りを出来るな』

「緊張して何送っていいか分からなくなりそうだけどな」

 好きな人にメッセージを送ったり電話をかけたりする行為は、実際に会って話をするのとはまた違ったベクトルの緊張がある。

『気持ちはわからんでもない。俺も茜と付き合う前は真人と同じだったしな』

 今ではかなりバカップルな二人だけど、一哉もそんな時期があったのが意外だ。

『まぁでも、意外と会話は弾むと思うから気負わず行けよ。電話が無理ならメッセージを送れば良いんだから』

「そうだな。水曜日まで会えないから、どっかのタイミングでメッセージを送ってみるよ」

 その後、俺は書店で、西蓮寺さんが、俺と同じラノベを買っていた事を話した。すると一哉は、驚きの声を上げ、少しして、

『もしかしたらそれ……』

 と言ってきた。

「何だよ?」

『いや、何でもない。多分俺の思い過ごしだ』

「そこで切られるとかえって気になるんだけど……」

『本当に何でもないから気にするな』

 どうやら一哉はこれ以上この事に関して話す気は無いようだ。

 なので俺も深く追求するのをやめた。

「わかったよ」

『でも本当にいい感じだったみたいだな。この調子で頑張れよ』

「おう。ありがとうな」

『西蓮寺さんと付き合ったら、いつかダブルデートしようぜ』

「付き合えたらな」

『全ての命運ははお前の肩にかかってるからな』

「何で世界を救う前の勇者みたいになってんだよ?」

『自分で言うのも何だが、俺はあながちこの表現は間違いじゃないと思ってる』

 え?ダブルデートする事がそんなに大袈裟な事なのか?

「何でた?」

『考えてもみろ。中学時代からモテまくってるけど、どんなイケメンが告白してきても誰とも付き合わなかった西蓮寺さんだぞ?まさに難攻不落。RPGで言うとラストダンジョンどころかクリア後に行けるようになるダンジョン並の難易度だと言える』

 一哉の言葉を聞いて納得する。

 と言うか、珍しくゲームで例えてきたな。

『正直俺は中村とデキてるんじゃないかと思ってた』

 確かにそれは俺も思ってた。当時西蓮寺さんは中村こと中村圭介とよく喋っていたからだ。

 生徒会長と副会長で話すことがあるんだろうと思ったけど、生徒会の内容の他に、お互いの趣味とかプライベートな事まで話していると風の噂で聞いたことがある。

『中村はイケメンでバスケ部エースで真人より身長が高い。オマケに生徒会長もやってたから、俺達の学年であいつ以上にハイスペックな奴はいなかったもんな。……性格を除けば』

「確かにな。……性格を除けば」

 奴の男子に見せる素の性格は良いものとは言えなかったけど、実際中村も相当モテてたのは事実だ。

 一部で中村は交際している女子を取っかえ引っ変えにして飽きたら捨てるだの、複数の女子と付き合っていた等の噂があった。

 俺も一哉も中村の事は苦手だったので、自分達から関わろうとしなかったから噂の真相は知らない。とにかく女癖は悪いと男子の間では噂になっていた。

 当時は宮原さんがいない時は中村が西蓮寺さんの隣にいる事が多かったから、美男美女カップルなんて言われていた。

 それを見ていた俺は気が気でなかった。

『だが結局二人は付き合ってなかったそうだしな』

「だな」

 中村とは付き合ってないと西蓮寺さんが友達に言っていたのを耳にしたことがあった。

 あの時は西蓮寺さんが中村の毒牙にかからなくて良かったと心底安堵した。

『もし真人が西蓮寺さんと付き合う事になったらマジで大番狂わせ、大金星ものだろうよ』

「まぁ、確かにな」

 一哉の言葉に納得するのは複雑だが、中村とのスペック差は自覚していたから納得せざるを得ない。

『だから西蓮寺さんと放課後デート出来るこの機会にしっかりとポイントを稼いどけよ』

「わかってるさ」

『まぁ、俺が言うまでもないか。来週も楽しんでこいよ』

「あぁ、ありがとう」

 一哉との通話を終了した俺は、ベッドに横になり、仰向けのまま自室の蛍光灯を眺めていた。

 次に西蓮寺さんと会うのは来週の水曜日。

 今日の放課後が楽しすぎたので、次会うのが待ち遠しい。

 流石に水曜日までは長いので、何かメッセージを送ってみようかな?

 そう思った俺は、スマホのメッセージアプリを開き、友達一覧から「西蓮寺綾奈」の文字をタップする。

 送る内容を十五分程悩んだ後にメッセージを入力し始める。

【今日は本当に楽しかったです。来週も楽しみです】

 と、当たり障りのないメッセージを入力した。

 敬語はちょっと堅苦しいかもとは思ったけど、大丈夫だろうと思い、西蓮寺さんにメッセージを送った。

 十分程して既読になりそこからすぐに返信が来た。

【ちぃちゃんと電話してました。メッセージありがとう。私も凄く楽しかったよ】

 そんなメッセージの後に、満面の笑みの可愛い猫のスタンプが送られてきた。

 メッセージとスタンプを見て、俺は自然と口角が上がっていた。

 その後にまた西蓮寺さんからメッセージが来た。

【来週、早く来てほしいね】

 そのメッセージを見て、俺はベッドが上体を起こす。

 西蓮寺さんも今日楽しいと言ってくれた。そして来週も楽しみにしてくれている事を思うと急に鼓動が早くなる。

【俺も同じ気持ちだよ】

 何て返そうか悩んだけど、あれこれ考えるよりストレートに送った方がいいと思い、自分の気持ちをメッセージで送った。

【ふふ、嬉しいな】

 そんなメッセージの後に、今度は喜んでいる猫のスタンプが送れてきた。

【改めてだけど、今日は本当にありがとう。また来週ね。おやすみなさい】

【うん。おやすみなさい】

 おやすみを言い合って、西蓮寺さんとの初のメッセージのやり取りは終了した。

 明日は休日とはいえ、あまり遅くまでやり取りをすると、相手にも迷惑がかかってしまうかもしれない。

 時計を見ると時刻は午後十一時。眠気が襲ってきた俺は、改めて今日の事を思い返しながら布団に潜り、眠りについた。

 今日は何だかいい夢が見れる。そんな気がした。

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