第15話 綾奈と母親の恋バナ

 まだ、凄くドキドキしてる。

 私は今、自宅の中に入って、さっきの中筋君とのやり取りを思い出しながら玄関にもたれかかっていた。

 今日は本当に楽しかった。夢のような時間だった。

 中筋君と過ごす時間はあっという間に過ぎて、もっと一緒に居たいと思い、迷惑だと思ったけど彼に自宅まで送って貰うようにお願いをした。

 彼は男に家を教えていいのかと聞いてきたけど、もちろん中筋君以外の男の人に自宅の場所を教えるつもりは全くない。

 誠実で優しく、大好きな中筋君だから私はお願いした。

 その時に少し本音を漏らしてしまったけど、咄嗟にライトノベルの話題を出したからごまかせたよね?

 家に到着したけど、まだ離れたくなくて、でもこれ以上引き止めると中筋君に迷惑がかかるから、最後に指切りをお願いした。

 最初は戸惑っていた中筋君だったけど、指切りに応じてくれてほっとした。

 初めて中筋君に触れて、指切りしてる時は本当にドキドキした。

 小指が離れた瞬間、もっと触れていたい衝動が襲ってきたけど慌てて理性を総動員させて抑え込んだ。

 もし、理性が働かなかったらどうなってたんだろう。

 考えると顔全体が真っ赤になるのを感じたから、無理矢理思考を停止させて、改めてさっきまで彼と繋がれていた小指を見る。

 指切りをしている光景を思い出していると、愛しさが込み上げてきて、私はその小指を左手で優しく包み込んでいた。

「おかえり。綾奈」

「へっ!? た、ただいまお母さん」

 声をかけてきたのは私のお母さん、西蓮寺明奈だった。

 晩御飯の準備をしていたのか、背中まで伸びた長い髪をゴムで結び、エプロンを着用していた。

「もうすぐお夕飯の準備出来るから、手を洗って着替えていらっしゃい」

「う、うん」

 私は靴を脱ぎ、慌てて洗面所へ移動する。

 するとお母さんは、私の様子を見て、「何かいい事あった?」と言ってきた。

「な、何で!?」

「すっごく素敵な笑顔してたから」

 私、そんなに顔に出てたの?

「もしかして、好きな人でも出来たの?」

「っ!」

 お母さんの発言を聞いた私はドキリとしてお母さんの方に振り返る。

 お母さんはおっとりした感じなのに勘が鋭い。好きな人は去年からいたのだけど、今日初めて一緒に下校して、沢山お話をして、私の勘違いじゃなければ距離は絶対縮まったと思う。

「あらあら」

 私の表情で何かを察したお母さんは指を口元に持って行って目を細めていた。

「良かったら今度うちに連れていらっしゃい」

「か、彼とはまだそんな関係じゃないから!うちに連れて来られても迷惑になるよ」

「まだって事は、行く行くはそう言う関係になる予定があるのね?」

 昔から恋バナが好きなお母さんの目がキラキラしてる。

「もうっ、お母さん!」

「ごめんね。……その彼と上手く行くと良いわね」

「うん」

「綾奈、その彼の事が凄く好きなのね。恋する乙女みたいな顔してる」

「それ、夏休みにちぃちゃんにも言われた」

「あら?千佳ちゃんは綾奈の好きな人を知ってるのね?後で聞いてみようかしら?」

 お母さんとちぃちゃんは仲良しでメッセージアプリでちょくちょく連絡を取り合ってるって聞いたことがある。

「恥ずかしいからそれはやめて」

「冗談よ」

 そんなやり取りをして、私は洗面所でうがいと手洗いをして、階段を登り、自室に入った。

 自室に入り、スクールバッグを勉強机の上に置き、ベッドに向かい、着替えもせずそのままベッドに倒れ込んだ。

 そして仰向けになり、私は改めて中筋君と指切りを交わした小指を眺める。

 ほんの数分前の出来事だったから、余韻が冷めてなくて、思い出すと口角が上がってしまう。

 そのまま私はベッドをゴロゴロと転がる。

 さっき別れたばかりなのにもう彼に会いたい。

 次に中筋君に会えるのは来週の水曜日。とてもじゃないけど待てる自信が無い。

 私と中学時代から話してみたかったって言ってくれたのと、一緒に帰ることになって嬉しいって言ってくれたから、中筋君も私と同じ気持ちなら嬉しいな。

 中筋君が言ってくれた言葉を思い返していると、リビングから「綾奈ー、ご飯出来たわよ」とお母さんの声が聞こえてきて、私は現実に引き戻される。

 私は「はーい」と返して、リビングに降りていった。

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