第3節 初デート

第10話 四人からの激励

西蓮寺さんと一緒に下校する約束をした翌日の登校中、俺は昨日の放課後に起こったことを幸ばあちゃんに報告していた。

ちなみに幸ばあちゃんとこうして朝会うのは、週一回、多くても二回くらいなのだが、二日続けて会うのはちょっと珍しい。

俺も幸ばあちゃんも、いつもの時間通りにこの歩道橋を通るわけではないからだ。

「まぁ、好きな女の子と一緒に?それは良かったわねぇ」

まるで自分の事のように喜んでくれる幸ばあちゃん。

「ありがとうございます」

「諦めなかった真人くんの想いが通じたのかもしれないわねぇ」

「どうでしょうね?でも、やっとスタートラインに立ったと思っているので、これから頑張って、その人と関係を築いていきたいと思います」

「真人くんなら大丈夫よ。私も応援してるから、頑張ってね」

「はい!頑張ります」

幸ばあちゃんの激励を受け、俺は彼女と一緒に歩道橋を渡った。


二限目の休み時間。俺の席に、昨日一緒にラノベを買う予定だった健太郎が少し心配そうな感じでやってきた。

今日も長い前髪で目が見えなかったので、健太郎の表情があまりわからない。

「真人、あれからあの人とはどうなったの?」

宮原さんとは別にどうにもなってないのだが、少なからず心配をかけた友人に、俺は昨日の事を話した。

すると、健太郎は驚いた様なリアクションでこう言ってきた。

「宮原さん、だっけ?あの人の親友が真人の好きな人で、その人の頼みで真人が今日から一緒に下校する事になったって……、普通に考えたらまず起こらないイベントだよね?」

俺も健太郎に同意だ。小学校から一緒だったとは言え、まともに喋ったのは今年の夏休みにあった合唱コンクール後のほんの数分。それだけのペラペラな接点しかなかったのにも関わらず、西蓮寺さんは自身のボディーガードに俺を指名した。

本人から言われた事だから、間違いなく現実なんだけど、未だに実感が湧かない。

すると健太郎は腕を組み、右手で顎を支えるかのように触った。

「宮原さんの親友の西蓮寺さん?も、真人の事好きだったりして」

「それこそありえないな。健太郎は知らないだろうけど、西蓮寺さんは中学時代めっちゃモテてた所謂学校一の美少女だった人だ。そんな人が、大して話したこともない俺を好きになる理由がわからないし、宮原さんも言ってたけど、俺を指名したのは、俺が西蓮寺さんに手を出す勇気もない奴だからってだけだと思うよ」

西蓮寺さんが俺の事を好きなんて考えたこともなかった。あれだけの美少女が俺に好意を向けている、そんな事を考えるのもおこがましい事だと思ってきたし、自意識過剰にも程があると思ってきた。

だからそんな現状を打破すべく、ダイエットを始め、勉強にも真面目に取り組みだしたのだ。

「やっぱり僕の考えすぎかなぁ?」

「でもまぁ、そう言うラブコメ的な展開を想像してしまうのはオタクの性みたいなものだから仕方ないよ」

「でも、真人はそんな西蓮寺さんと仲良くなりたいと思ったから、ダイエットも成功して成績もあげたんだよね?それは本当にすごいと思うし、尊敬できるよ」

突然の健太郎からの賛辞に俺は少し顔を赤らめ照れてしまう。

「……僕も、真人の様に変われたら、あの人に」

「え?」

健太郎が独り言を言っていた。声が小さくて、なんて言ったのか聞こえなかったので思わず聞き返したのだか、「なんでもないよ。とにかく今日は頑張ってね」と、はぐらかされてしまった。


時間は流れてあっという間に放課後になった。

授業から解放され、部活に向かう生徒、委員会に向かう生徒、帰宅部で帰ろうとする生徒がいる中、俺は授業で使った教科書を鞄にしまい、「よし」と、気合いを入れて席を立つと、一哉が話しかけてきた。

「真人、いよいよだな」

「あぁ」

「やっぱり緊張してるか?」

「そりゃあな。緊張するなってのが無理な話だ」

世の片想い中の人やカップルも、最初はこんな緊張するイベントをこなしていたのかと思うと、何か尊敬の念が芽生えてくるな。

「気持ちは分かるが、緊張ばかりしてたら損だぞ。初めての放課後デート、楽しんでこいよ」

「おう、ありがとう」

「連絡先聞くのも忘れるなよ」

「お前は俺をリラックスさせたいのか緊張させたいのかどっちなんだよ?」

「まぁ、何にしても気負うなって事だよ」

一哉なりの激励を貰う。

そうだよな。俺が緊張すると、それが西蓮寺さんまで伝わってしまうかもしれない。なるべくいつも通りを心がけて楽しむようにしよう。

「そうだな。じゃあ、行ってくる」

「頑張れよ。また来週な」

一哉と挨拶を交わし、俺は教室を後にした。


一哉と教室で別れ、下駄箱で靴を履き替えようとしたところで、知った顔が近づいてくるのがわかった。

「やっほー。真人」

「茜」

向こうも俺に気づいたらしく、これから部活に向かうのか、体操服姿の茜が俺に話しかけてきた。

「カズくんから聞いたよ?あんた、これからあの西蓮寺さんって言う子とデートなんだって?」

俺の今日これからの事を知っていた茜は少しニヤニヤしながら言ってきた。

「あぁ」

「うわ、思ったより普通。もっとガチガチに緊張してると思ったのに」

「緊張してないって言ったら嘘になるよ。でもまぁ、教室で一哉に「楽しんでこい」って言われてちょっと落ち着いただけだよ」

「さすがカズくん。あたしの自慢の彼氏だわ」

「はいはい。じゃあ、俺もう行くから」

「うん。真人、頑張ってね」

「ありがとう。茜も部活頑張れ」

茜は「じゃねー」と言って体育館に向かって歩いて行った。

今日一日、幸ばあちゃんと友人三人に応援の言葉を貰い、俺は友達に恵まれてるなと思いながら、待ち合わせ場所の高崎高校最寄り駅に向かい歩き出した。

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