第11話 連絡先の交換
高崎高校最寄り駅に着いた俺は早速西蓮寺さんと宮原さんを探す事に。
あまり大きいとは言えない田舎の駅だけど、構内には高崎の生徒を中心に結構な人が居た。
そんな中、二人を探して歩いていたら、程なくして見つけることが出来た。
正確には、長身で色素の薄いオレンジ色の髪の宮原さんを見つけた、になるのだが、やっぱり宮原さん目立つなぁ。歩くランドマークかよ。
そんな事を思いながら二人に近づいていくと、俺に気づいたのか、西蓮寺さんが笑顔で手を振ってくれていた。
その笑顔を見てドキリとしながら、俺も笑顔で手を振り返し、二人に駆け寄った。
「ごめん。待たせたかな?」
「ううん。中筋君の方が移動距離長いんだから気にしないで」
俺を気遣って優しい言葉をかけてくれる西蓮寺さん。天使かよ。
「けっこう急いで来てくれたみたいだし、そこはポイント高いよねぇ」
宮原さんも別に怒っているわけではなさそうだ。いつの間にポイント制になったのかは謎だけど。
「ほら、綾奈」
「う、うん」
そう言うと宮原さんは、西蓮寺さんの背中をぽんっと軽く叩いた。何かあるのか?と少し首を傾げながら、俺は昨日から一哉に言われた事を思い出していた。
そうだ、西蓮寺さんに連絡先を聞かないと。
今日これから一緒に帰るんだから、聞けるチャンスはいくらでもあると思うけど、いざ聞かなきゃと思うと緊張するし、今聞かないとズルズルいって結局聞けずに終わる未来まで見える。
俺は意を決して西蓮寺さんに話しかける。
「「あの……!」」
俺と西蓮寺さんの声が見事にハモった。直後、また同時に「「えっ?」」とハモる。
いや息ぴったりかよ?嬉しい。
「西蓮寺さんからどうぞ」
「わ、私はいいから、中筋君から話して」
「いや、ここは西蓮寺さんから」
「中筋君からどうぞ」
そんな譲り合いの精神を互いに発動させ、二、三度同じやり取りを繰り返した後、そばで見ていた宮原さんは何かを察したらしく。
「なら二人同時に言ったらいいじゃん」
と提案してきた。ちょっと顔がニヤニヤしてるのは気のせいでしょうか?
「駅の構内でそんな漫才みたいなことやっててもしかたないじゃん。近くを通りかかった人もあんた達を見るし、何より早くしないと本屋に行くのがどんどん遅くなっちゃうし」
確かに、こんなやり取りをいつまでもしていると、本来の目的である西蓮寺さんを家まで送ると言うミッションを遂行する時間がどんどん遅くなり、西蓮寺さんのご家族にいらぬ心配を掛けてしまうかもと思った俺は、宮原さんの提案をのむことにした。
「わかったよ」
「綾奈もそれでいい?」
「う、うん」
宮原さんは西蓮寺さんにもそれでいいか聞いて、西蓮寺さんも同意する。
「二人同時にだからね?言うふりをして相手だけ言わせるなんてつまんない真似しないでよね?」
後半部分は何故か俺の方にジト目を向けて言ってきた。
俺ってそんなに勇気がないチキン野郎って思われているのか?
本当に俺がチキンハートの持ち主でもここは空気を読んでちゃんと言うし、言わなくて西蓮寺さんに恥ずかしい思いをさせる訳にはいかないしな。何より本当にそんな事をしたら、宮原さんに何をされるかわかったもんじゃない。
「はい、行くよ。せーの」
宮原さんの合図と同時にに、俺は息を吸い込み、意を決してお願いを口にする。
「俺と、連絡先を交換してください!」
「私と、連絡先を交換してください!」
瞬間、俺と西蓮寺さんの声は見事にハモった。
「「え?」」
おまけに、その後のリアクションまで見事に同じ。いや息ぴったりかよ?嬉しい。(二回目)
「あはは。あんた達揃いすぎ。息ぴったりじゃん」
そんな俺たちを見て、宮原さんはからからと笑っている。
と言うより、西蓮寺さんが俺と連絡先の交換をしようと言ってきたことは完全に予想外だった。
一緒に帰ることをお願いしてきたと言っても、所詮それは俺が西蓮寺さんに何かするような勇気を持ってない奴と認識されていて、一緒に帰る曜日も、待ち合わせ場所も設定されていたので、西蓮寺さん的には、俺と帰ることはあくまで自分に言い寄ってくる男達を近づかせないためであり、それ以上でもそれ以下でも無いものとばかり思っていたので、彼女には俺と連絡先交換をしても、何らメリットは無いものと思っていた。
なのに、今目の前にいる俺の好きな人は、俺が思っていた様には一切見えず、それどころが自分から俺と連絡先の交換をしたがっている様にも見える。
西蓮寺さんが俺と同じことを思っていてくれたことには、素直に嬉しいし、油断すると顔が緩みそうになる。
「えっと、じゃあ西蓮寺さん、交換、良いかな?」
「はいっ!」
若干照れながら、スマホを差し出して改めて聞くと、西蓮寺さんも少し照れた様子で、だけど笑顔で肯定してくれて、同じくスマホを出してきた。
こうして俺達はメッセージアプリで連絡先を交換した。
俺のこのメッセージアプリで女性の名前が登録されるのは、母親と妹の美奈、それと幼なじみの茜に続き四人目だ。
画面内に表情された「西蓮寺綾奈」の名前を見ると、嬉しくてつい顔がにやけてしまいそうになるので、目線をスマホから上に上げ、西蓮寺さんの方を見ると。
「……」
西蓮寺さんもスマホの画面を見ていた。
恐らく画面には、先ほどメッセージアプリで登録されたばかりの俺の名前が表情されているはずなのだが、その画面を見る西蓮寺さんの表情に俺は驚いた。
西蓮寺さんは目を少し見開いて、気のせいかその目は潤んでいて、口角が上がっている。
まるでずっと欲しかったおもちゃを買ってもらった子供が、嬉しさのあまりはしゃいで、一通りはしゃいだ後に改めてそのおもちゃを見て、嬉しさが隠しきれていない表情の様に見えた。
そんな西蓮寺さんを見ていると、こっちの視線に気付いたのか、西蓮寺さんも俺の方を見て、頬を朱に染め、目を細めた。
「……っ!」
そのあまりの可愛さに俺は心臓が大きく跳ねるのを感じ、直視が出来ず、咄嗟に顔を右に向ける。
顔も熱くなり、俺は照れ隠しの為、右手の甲で自分の口元を隠す。
「反則だろ、その表情」
俺は、二人に聞こえない声量で独り言ちた。
「ありがとう中筋君」
「いやいや、こちらこそありがとう」
お礼を言い合った後、お互い照れながら見つめ合っていると、宮原さんが口を開いた。
「二人の世界に割り込んで悪いけど、中筋、あたしとも連絡先の交換してよ?」
「いや、なってない……へ?」
またからかって来たと思ったら、宮原さんから予想外な言葉が飛び出し、俺は素っ頓狂な声をあげる。
「なに?あたしと交換するの、嫌なの?」
「い、いやいや、そんな事ないから!ちょっとびっくりしただけだから」
俺のリアクションが不服だったのか、宮原さんがジト目を向けてきた。
いや、宮原さんに睨まれるとマジでビビるんですよ。睨まれて下がる防御力は俺にはないと思うんだけど。
すると宮原さんは、俺の腕を掴み、西蓮寺さんと少し離れたところに移動して、腕を俺の肩に置き、顔を俺の耳元まで近づけてきた。
いや、近い。何かいい香りするし、これだけ近いと目線が宮原さんの豊満な果実が作り出す谷間に吸い寄せられる。目に毒だが、視線が外せないので、俺は思い切り目を瞑ることにした。
「これから綾奈と接する機会が増えるんだから、綾奈の事で知りたい事や相談があったらメッセしてきなよ」
なるほど。つまり宮原さんは、西蓮寺さんの事で困ったら自分を頼れと、そう言ってくれているのか。
「あ、ありがとう」
宮原さんなりの優しさを感じながら俺は彼女にお礼を言った。
こうして俺は西蓮寺さんに続き、宮原さんとも連絡先を交換した。
交換を終えた俺達が西蓮寺さんの所に戻ると、何故か西蓮寺さんは少しだけ膨れっ面になっていた。
え?なぜ?
「あはは。ごめんね綾奈」
宮原さんが謝ると、西蓮寺さんは元の表情に戻った。一体何に不機嫌になっていたんだろう?
「じゃあ、あたしはもう行くから。頼んだよ中筋」
「わかった。またね、宮原さん」
「ばいばいちぃちゃん。また来週ね」
別れの挨拶をした後、宮原さんは俺たちに向けて手を挙げ、そのまま駅から出ていった。真っ直ぐ帰るのではなく、どこかに寄り道するのだろうか?
「「……」」
西蓮寺さんと二人きりになったのだが、緊張して話題が思いつかない。
「そ、それじゃあ、行こうか」
「う、うん」
数秒の沈黙が流れた後、話題が思いつかなかった俺は、そのまま西蓮寺さんと電車に乗るため、ホームに移動した。こんな事ならもっと話題の引き出しを増やすよう努力しようと強く思った。
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