第8話 放課後デートの約束
途中まで二人と一緒に歩いている時、俺は明日の事で気になる事があったので聞いてみた。
「ところで西蓮寺さん。明日は帰りは真っ直ぐ家に帰る?それとも何処かに寄ったりするの?」
大した事ではなかったけど、何となく気になったので西蓮寺さんに質問をしてみた。
西蓮寺さんの家というゴールはあるけれど、その途中でどこかに寄り道をすれば、それだけ西蓮寺さんと一緒にいられる時間も増えるから嬉しい。などと言うしょーもない理由だ。
「うーん……」
すると西蓮寺さんは、人差し指を顎に当て、それを見ながら逡巡している。
その仕草が可愛すぎてずっと見てられるんですけど。
「明日は真っ直ぐかえ……」
「あーそう言えば綾奈、明日は買いたい本があったから本屋に行くとか言ってたよね?」
宮原さんが西蓮寺さんの言葉を遮ってそんな事を言ってきた。
「中筋と初めて一緒に帰るから気を使って真っ直ぐ帰るって言いそうだったけど、せっかくだし本屋にも付き合ってもらいなよ」
言いながら宮原さんは西蓮寺さんに何やら目配せをしている。きっと二人にしか分からないやり取りだから俺は黙ってそのやり取りを見る事にした。
「う、うん。……中筋君、一緒に帰ってもらうだけでも申し訳ないんだけど、書店にも付いてきてもらえるかな?」
上目遣いでお願いしてくる西蓮寺さん。そんな顔されたら俺は拒否権を喜んで放棄する。
「も、勿論良いよ!ちょうど俺も買いたい小説があったから」
ちょうど今日買いに行こうとしたラノベの新巻も欲しかった事もあって、西蓮寺さんのお願いを二つ返事で了承する。これって、放課後デートなんじゃ……って思い顔が少し熱くなったので、頭を軽く振って都合のいい妄想を振り払う。
「? 中筋が欲しいのって、ライトノベルっ言うの?あの可愛い女の子がよく表紙になってるやつでしょ?」
「え?なんで知ってるの?」
「いや、あんた中学の時から休み時間は山根と話すか、そのライトノベルを読むかのどっちかだったじゃん?だからそう思ったんだけど」
「まぁ、確かにそうだけど、それにしてもよく俺が休み時間に読んでいた小説がラノベ……ライトノベルってわかったね?いつもカバーしてるから分からないものだと思ってたけど」
「あんた一回だけカバー付け忘れた日があったでしょ?その時に見えたんだよ」
「あぁ、確かに付け忘れた事あったかも。しかもたまたまその時に見られてたのか」
「例えその時に見てなくても、あんたがオタクだって事は知ってたから、多分そうだろうなって予想はしやすいよ」
確かに俺は、中学の時から学校でもオタク趣味を隠してはなかったけど、俺に興味なんてなさげなこの二人にも知られていた事実に俺は驚かされた。
「まさか二人にも俺がオタクだって知られてたのはびっくりだけど、西蓮寺さん、そんなオタク野郎にボディーガードをお願いして良かったの?」
西蓮寺さんはそんな事で否定しないとは分かっていたけど、俺がオタクだって知られていた不安から、ついそんな質問が俺の口から出てしまった。
「もちろんだよ。私も中筋君の趣味の事は知ってたし、今はじめてその事を知ったとしても、そんな事でお願いを無しにする事はありえないよ。そんな失礼な事、中筋君にしたくないし」
予想通りの返答を貰えたことに安堵する俺。彼女の返答にこんなにも心が温かく、満たされるのはやはり西蓮寺さんが俺にとって特別な女性だからだろう。
そんな彼女の言葉が嬉しくて、俺は西蓮寺さんの方を見て、目を細め「ありがとう」と言う。
「そ、そんなお礼を言われる程の事じゃ……」
西蓮寺さんは顔を赤くしながら、カバンを持っていない左手を顔の近くに持ってきて、ブンブンと左右に勢いよく振る。
「はいはい。二人の世界になるのは良いけど、あたし達こっちだから」
そんな俺達のやり取りを見ていた宮原さんは、少し呆れながら、差し掛かったT地路の左方向に指さして言ってきた。
「二人の世界」と言う言葉に照れてしまい、少し顔を赤くする俺。
「ふ、二人の世界になんてなってないから!」
西蓮寺さんも顔を赤くして、慌てた様子で宮原さんの言葉を否定する。わかってはいたけど何か悲しい。
「んん。俺は右方向だから。じゃあ西蓮寺さん。また明日ね」
俺は咳払いをして、ここで別れる好きな人に挨拶をする。
「……っ。うん、中筋君。また、明日ね」
俺の方に向き直った西蓮寺さんは、満面の笑みで俺に挨拶を返してくれた。
この笑顔を見て、俺の心臓が跳ねたのは言うまでもない。
「……中筋、あたしも駅までは綾奈と一緒に行くんだけど?」
「ご、ごめん!宮原さん、また明日ね」
ジト目を向けて不満げに言ってきた宮原さんに、俺は慌てて挨拶をする。
「ん、またね。全く、言った傍からまた二人の世界を作るんだから……。そう言うのは明日にしろし」
「もぅ、ちぃちゃん!」
そんな宮原さんの言葉に抗議する西蓮寺さん。そんな親友二人の背中を少し見た後、俺は彼女達とは反対方向へ歩き出した。
しかし、二学期早々えらいことになったな。
まさか初恋の人のボディーガードと称して一緒に帰れる日が来るなんて……それも一回きりじゃなくて週に二回も。
それに、そのボディーガード役に俺を推薦したのが他ならぬ西蓮寺さんだと思ったら俺は自然と目が細くなり、口角が上がっているのに気がついた。
いかんいかん。西蓮寺さんは俺が一緒にいても自分には何も出来ないチキン野郎と思って推薦しただけで、それ以外他意はないんだから、変な期待もキモい想像もしないようにしないと。うん、自分で言ってて悲しくなるな。
でも裏を返せば、それだけ他の男子より安全と思われていると言えなくもないと思うようにして、明日の事を考えながら家に向かって歩いていた。
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