君の首筋に舌を這わせ

 お気に入りの堤防で、身を寄せ合いながら夕陽の落ちるのを眺めるさざ波さんと海南。二人の影が、今は使われていない漁具の捨て場にまで伸びていた。


 綺麗な海に反射する暖かな光は、ロマンチックな雰囲気を醸し出す。

「ねえ」さざ波さんはそれ以上の言葉は閉じ込めたまま、海南のロングヘアをかきあげた。

「なに」海南はさざ波さんの『特別の』雰囲気に飲み込まれてしまう。


 さざ波さんの顔が海南の耳元に近づいて…


 ツツツー。


「ヒァッ」

 海南は予想だにしなかった刺激に驚き、堤防から滑り落ちそうになった。


「さざ波さん、何すんの」

 さざ波さんは海南の首筋に舌を這わせ、最後に軽く唇を添えた。


「おかしいの」

 海南から少し身を遠ざけて、さざ波さんは呟く。


「海の側なのに、うみなちゃんは土の味がする」

 どういう意味かと戸惑う海南だったが、さざ波さんの瞳に見つめられて体の自由を奪われてしまった。さざ波さんは海南の頬にキスをしてこう続けた。

「これは悲しい汗の味。ううん、これは涙だ」


 海南は自分でもなぜかわからないのに泣いていた。別に何かあった訳ではないのに。さざ波さんはやっぱり傍に居てくれるのに。海南は言葉を失った。


「大丈夫、わたしが居るよ。うみなちゃんはわたしに生きてほしいって言った。だからうみなちゃんの側で生きるの」


 さざ波さんの華奢な腕に肩を抱かれた海南は、ふらつきながらも帰路についた。自宅に戻って何をしていたかは覚えていない。ただただ暗闇に吸い込まれるように眠って、朝を迎えた。

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