第567話 流の災難と、内緒のアルバイト!? その㊹

「…い、いえ、こっちこそ、すみません」

 梅川の気迫に押されたのか、少年は結へそう言った。

 この時、結は気づいたのだ。少年の目線が何度もある方向へと向けられている事に。

 その方向は、休憩所のすぐ近くの木だ。何本か植えられており、枝を覆うぐらいの鮮やかな緑色の葉っぱが夏の日差しに照らされていた。

 一瞬、その内の木の枝の上の空間が細く光った。それに気づいた結は思わず駆け出す。

「―ま、待って!?」

 少年は引き留めようとしたが、流に肩を掴まれたままだったので右手を伸ばす事しかできなかった。

 流と梅川は立ち止まったままだったが、満は走り出した。結の後を追いかけるように。

「…結さん!?どうしたんだい!?」

 梅川が『はっ!?』とした顔で慌てて追いかけ始めた。

 

 結はその木の傍まで走ると、息を整えながら顔を上に上げた。

 木の幹から何十本の枝が伸び、その先には何百枚もの葉っぱが付いている。重なり合う部分は濃い緑色となり、夏の光を遮っていた。

 顔を左右に動かしながら、結は先ほどの細長い光を探す。確か、この木の枝の上で光っていたはずなのだが…?

「―あ!」

 よく見てみると、一番低い枝から細長い糸が上に向かって伸びていた。  

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