第543話 流の災難と、内緒のアルバイト!? その⑳

「…え?」

 いきなり入ってきたお客に名前を呼ばれ、結は疑問の声を出した。

「あ、あの僕は梅川俊彦です!十年前、成宮家との親睦の会でお会いした!」

「…!あの、俊彦さんですか?」   

 名前を聞いた結は、十年前の親睦の会の事を思い出す。すると、そこで出会った同じ年の一人の少年の顔を思い出したのだ。

「………」

「あ、すぐに分からなかったのも無理ないよ。あの時からずいぶん変わったから」

 結がすぐ思い出せなかった事に気を悪くしなかった梅川は、優しい笑みを浮かべた。


 十年前、結は家族と一緒に梅川家との親睦の会へ出かけた。

 幸澤市の中心部にある、広い庭がある高級旅館で行われたその会は、共に幸澤市では古くからの名家である成宮家と梅川家との親睦を深めるために行われたのだ。

 結は祖父から送られた青い友禅の着物を着ていたが、ほとんどの人は赤い友禅の着物を着ていた華ばかりに話しかけていた。結は話すのが苦手だったので、特に気にしてなかったが。

 両親に一言言ってから、結は一人で中庭に出て散歩していた。その時に話しかけてきたのが、梅川家の跡取り息子である俊彦だったのだ。

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