　さらにスーパーでパートをしていた母親も、同じく急に解雇されてしまった。そのスーパーの取引先が成宮グループだったため「解雇させないと、明日から一切取引しない」と告げられたからだ。

　しかも大学に通っている姉にも、大学からその日のうちに中退するよう迫られた。成宮グループの社長から「すぐに辞めさせないと、この大学出身者は就職させない」と言われてしまったのだ。

　そして追い打ちをかけるように、成宮グループの介護施設に入っていた祖父が追い出されてしまったのだ。要介護だったため、今は家で横になっており、一緒に入っていた祖母が面倒を見ている、とまで聞かされたのだ。

「…やりすぎだ」

　事情を聞いた結の父は、社長である弟がした仕打ちに頭を抱えた。いくら姪の結を溺愛しているからとはいえ、これらは完全な公私混同であり、職権乱用だ。

「お前を殴ってしまった事は謝るよ！だから、父ちゃん達に酷い事はしないでくれ！」

　目から流れ続けている涙で、特別室の床は濡れていた。涙声で、結へ許してくれるように訴えている。

「私には、貴方の怒りを受ける義務があります。だから、貴方の家族への酷い制裁を望んでなんかいません」

　その言い回しに、土下座した男子生徒はすぐに理解できなかった。

「会長に話して、貴方方への制裁はすぐに撤回させます。娘は、貴方方が酷い目を遭う事を望んでいませんから」

　結の父が、しゃがみながら土下座したままの父親へ声をかける。すべての事情を知り、そして娘が許した事で、理不尽なくらいに苦しんでしまった加害者の家族をいたわっていた。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい