第374話 謎の美少女と、すぐ瘦せるサプリ!? その80

「それで、君の方からも教えてくれるか?」

 結が自分の祖母の隣に腰を下ろした後、向かい側に座っていた満の祖父が聞いてきた。

 定年まで警察官を勤め上げてきただけあって、六十代とは思えないほどのがっしりとした体格だ。それに対し表情は、多くの市民を見守ってきた温かさがにじみ出ている。

 その眼差しに、結は緊張がほぐれていくのを感じた。余計に入っていた肩の力が抜けていくのを感じた後、深呼吸をして、思い出しながら話し始めた。

「私が近くの公園に入り、真ん中まで来た時に後ろから頭に水をかけられました。さらに前と後ろからも同時に水をかけられ、ハンカチを取り出して眼鏡を拭いた時には私の鞄がなくなっていたんです」

 その時は驚きの感情が強かったので、怖いという感情はあまりなかった。だが、思い出すと今頃『いきなり水をかけられる』という悪意を受けたことに体が震え始めたのだ。

「現金はなくなっていましたが、その他の物は無事でした。鞄が防水性だったので、中身が濡れてなくてよかったです」

 結の体の震えが何とか落ち着き、そして心が折れなかったのは、楽しみにしていたアニメのブルーレイボックスの予約券が無事だったからだ。もしあの手紙がなかったら、家に帰る前に近くのアニメ専門ショップに寄って手に入れていたはずだったから。

 普段はあまり大金を持ち歩かない結だが、今日はそれを買うためにたまたま三万円も財布に入れていたのだ。運悪く、そのお金を先ほどの事件で盗まれてしまった。

(両親との交渉で手に入れたお金なのに、まさか盗まれてしまうとは…)

 結の家はお年玉などの大金が手に入った時、半分は貯金し、残りは両親が管理している。

 お小遣いで買えないほどの高い物が欲しい時は、両親と話し合いをし、買ってもいい事を認めさせなければならないのだ。

 結の両親はアニメに理解はあるが、だからと言ってむやみに何でも買っていいとは言わなかった。

 それで結は、両親にこのブルーレイボックスが欲しい理由を話して、昨日の夜に両親を納得させてブルーレイボックスを買うお金を手に入れたのだ。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る