第292話 成績を上げる意外な方法 その143
「そんな事があったのか…」
すべて聞き終えた結の父親は、居間のソファに座ったまま湯呑のお茶を一口飲んだ。
「はい、六時限目の授業が終わった頃には、華さんは立ち直っていました。他の皆さんといつも通り話していましたし。それからお洒落については何も言ってこなかったので、今回は諦めてくれた、と思うのですが」
向かい側のソファに深く腰掛けた結が、温くなった湯呑を両手で持ったまま呟く。華が無理やりお洒落をさせようとした事に対し、正直ややうんざりしていた、という顔だ。
(華ちゃんは昔から、結を思い通りにしようとするところがあったからなあ…。華ちゃんは自分と同じ成宮家の一員として相応しくするために結をプロデュースしているつもりかもしれないが、肝心の結の気持ちを考えずに突っ走ってしまうところがあるから)
結が大人しい性格だからか、華は小学生の頃から何度も結を振り回していたのだ。興味がないアイドルのコンサートに連れて行ったり、女の子の同級生達を招待したキッズスタジオでの撮影会へ強引に連れて行って、着せ替え人形のようにいろいろな恰好をさせたり、とか。
そのたびに結は、疲れた顔で帰ってきた。それでも華は小学校を卒業するまで、結を自分がやりたいイベントに付き合わせたのだ。
結が公立の中学へ進学する、と知った時、父親の福次郎と一緒に私立の撫子女学院の中等部へ進学するように迫ってきた。だが、結の両親に説得され、渋々認めたのだ。
別々の中学になってから、華からイベントに誘われる機会はかなり減った。結の両親から事情を説明され、しばらく様子を見よう、と言う事になったからだ。
今の結が、華と一緒に居ても苦痛でないのは、そうして中学の時に距離を取ったからだ。そして高校生になった今では、華は無理やり結を誘う事はしなくなった。
結は一人で本を読んだり、行動するほうが気が楽である。そんな結を家族は温かく見守っている。
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