第277話 成績を上げる意外な方法 その128

『相手を思いやり、違いを認め、受け入れる心と技術が合わさった時、心から美しいメイクが生まれる』

 さらにこの文章が、作高の心に響いた。技術だけでなく、心も磨かないと人々の心を掴むメイクはできない。

 そのためには、まず二人へ謝罪しなければ。「自己満足だ」と言われても、まずは誠意を持って態度で示さないとならない。

 簡単に許してくれなかったら、それは仕方がないことだ。それだけ酷い事をしてしまったのだから。

―明日あのコンビニへ行って、酒井へ謝りへ行こう。

 本から顔を上げると、作高はそう決意した。



「結、京川さんと酒井さんはどうだった?」

 夕飯の後、リビングのソファに座って新聞を読んでいた結へ、両手で湯呑を持った父親が話しかけてきた。

「はい、京川さんは自分の席で、同級生の女の子と話をしていました。酒井さんは、新しく出来る学遊塾の系列の『無料で勉強ができる塾』のチラシを渡したら、喜んでくれました」

「そうか、二人とも良かったな」 

 片方の手の湯呑を差し出しながら、結の父親は安心した笑みを浮かべる。それを受け取った結も同じく笑みを浮かべながら一口お茶を飲んだ。

「…京川さんのお父さんは、大丈夫でしょうか?」

 ふと、結の口から心配する声が出てしまった。父の顔を見て、会社の事なので、さすがに聞いていいのか悩んでしまう。

「京川さんのお父さんは、今日の朝、会社へパワハラされていた事をすべて話したそうだ」

 娘の心配を察してか、父親は嫌な顔を一切せずに答えた。

「そうですか…!」

 会社へ話せた、と知って結は少し安心した。

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