第274話 成績を上げる意外な方法 その125

「…霧島さんって、凄いね」

 少し俯きながら、酒井がそう呟く。自分は作高の脅しに負けて、言う事を聞くしかできないのに。

「やっぱりもっと勉強したい。こんな事があっても、切り抜けられるように」

 霧島さんがこの事件を解決できたのは、勉強ができるから。そう思ったら、また塾に行きたい、と渇望してしまった。

「酒井さん、それなんですが…」

 結が鞄から、一枚のチラシを取り出す。それを酒井へ見せた瞬間、酒井の目が大きく見開いた。

「新しく出来る学遊塾の系列の塾は、経済的な理由でなかなか勉強ができない子供のための塾なんです。ボランティアの教師の方々が、週に数回で無料で勉強を教えてくれます」  

 そのチラシには、結が言った通り『無料で勉強ができる』塾の内容が書かれていた。

「塾長先生は前々から『親の経済的な都合で塾へ通えない子達にも、気兼ねなく勉強が出来る塾を作りたい』とおっしゃられていました。それで今回、学遊塾がテナント収入を得るために所有するビルの一室に、ボランティアの方々と一緒に、無料で学べる場所を作ったのです」

 塾長先生は定年後、長年きちんとした知識を駆使して築き上げた投資の利益で、最初の塾を開くための建物を一括払いで買った。それから、塾の経営と同時進行でずっと得ていた投資の利益を、塾を開くための建物を買う費用に当てていたのだ。

「面接と、親の収入を証明する書類が必要ですが、当の本人のやる気があれば入塾するのはそんなに難しくないと思いますよ」

「霧島さん…、ありがとう!」

 チラシを受け取った酒井の目には、嬉し涙が少し滲んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る