第219話 成績を上げる意外な方法 その70

「失礼、ちょっといいですか?」

 温和な声が、休憩室の外から聞こえてきた。

「…!?」

 別の知らない大人の声に、京川の両親も振り向く。だが、結はその声を聞いて緊張した顔つきが和らいだ。頼もしい大人が今、ここへ駆けつけてくれたからだ。

「…あなたは?」

 父親の隣で、今まで黙っていた京川の母親が尋ねる。

「私は、こういう者です」

 丁寧に差し出された名刺を見て、結以外全員が凝視した。

「が、学遊塾の塾長先生!?」

 今目の前にいる、七十代半ばの、知的なスーツ姿の老紳士に京川の父親は大声を出した。

「す、すみません!!娘が塾をサボってしまって!!」

 取り乱しながら頭を下げる京川の父親に、塾長はまず頭を上げるように言った。  

「いえいえ、霧島さんから事情は聞いていますよ。京川さんが塾を休んでいたのは、塾の前で倒れてしまうくらいに疲れがたまっていたからだ、と」

「…え!?」

 塾長は怒るどころか、逆に『塾を休んだ方がいい』という反応だ。予想外すぎる塾長の反応に、京川の父親は驚きの声をもらした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る