第200話 成績を上げる意外な方法 その51

「怒られるって…親に?」

「うん、前通っていた塾を辞めさせられたから、今日から学遊塾へ行けって…」

 心配する酒井へ、京川はそう話す。

「でも、倒れるくらいに疲れているんだよ。無理しないほうがいいよ」

 酒井は何とか休ませようと説得する。それでも、京川はどこか怯えたままだった。

「…もっと頑張らないと。私は頭が悪いから」

「ううん!それで体を壊したら何もできなくなるよ!私のお父さん、働きすぎで今入院してるから!」

 悲しい顔で叫んだ酒井に、京川の動きが止まった。

「お父さん、友達に勧められた株で大損をして、それで私を希望していた高校へ行かせられなかった事を悔やんでいたの…。それで大学のための費用を多く稼ぐために無理して毎日働いたら急に倒れて、今入院しているの」

 泣きそうな顔でそう話した酒井に、京川は驚いた顔になる。

「私は今、ここでアルバイトさせてもらっているの。

でも、本当は塾へ行って勉強したい。勉強ができれば特待生になって学費を払わなくてもすむから」

 酒井が言った言葉に、京川は何も言えなかった。京川は無理やり勉強させられているが、酒井は自分から「勉強したい」と言えるくらい塾へ行きたがっている。

「………」

 本当は、塾へ行きたくない。そんな時間があったら休みたい。

 だけどもし塾へ行かなかった事がバレたら、もっと締め付けが酷くなる。もっと勉強しろ、とさらにたくさんの問題集や参考書を押し付けられ、寝る時間さえなくなってしまうかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る