第172話 成績を上げる意外な方法 その㉓

 午前中の休み時間、結は再び二組の教室を尋ねた。

 結が教室をそっと見てみると、京川は変わらず自席で必死に勉強していた。机の上に何冊もの参考書や問題集が置かれており、その内の一冊を開いてシャープペンで答えを書こうとしている。

「霧島さん、どうしたの?」

 結に気づいた鳥山が、教室の外側に居た結へ話しかけてきた。

「…あ、田川さんに用事がありまして」

 内心ちょっと驚きつつも、結は本来の用件を話す。

「田川さん?ちょっと待ってて。今、呼んでくるから」

 鳥山はそう言うと、教室の後ろ側の自席でスマホをチェックしていた田川へ声をかける。

 いきなり呼ばれ、慌てて顔を上げた田川は、スマホを制服のポケットへ仕舞うと、鳥山と一緒に、結の前まで歩いて来た。

「田川さんすみません。いきなり来てしまって」

「う、ううん。用事って何?」

 隣に鳥山が居るため、田川はどこか嬉しそうだ。実は鳥山はクラスの中では女子にとても人気があり、田川も入学してから鳥山に好意を抱いていた。

「昨日、ノートをコピーさせていただいて、ありがとうございました。おかげで、京川さんは助かりました」

 礼を言った結へ「いいわよ、別に」と、田川は明るく言った。実際、結に頼まれた時も「それくらいなら」と嫌な顔をせずに引き受けたのだ。

「…昨日、京川さんは午後の授業に出てなかったね」

 思い出したように、鳥山が呟く。

「はい、京川さんはお昼休みに図書館で勉強をしていましたが、その時に倒れてしまったのです」

 結からの証言に、鳥山は「そうだったのか…」と納得した。

「確か、霧島さんが代わりに渡してくれるって」

「はい、放課後にお渡ししました。それから、京川さんの鞄も持ってきてくださって、ありがとうございました」

「いいよ、それくらい。私はバイトがあったから、一緒に行けなくて正直気が引けていたし」

「田川さんも、京川さんを助けてくれたんだね」

 結と一緒に困っていた京川を助けていた、と知った鳥山は、田川にも絶賛するような眼差しを送った。

「私は、霧島さんを手伝っただけだよ!」

 まさか自分も褒められるとは思ってなかったのか、田川は嬉しさで戸惑った。

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