第165話 成績を上げる意外な方法 その⑯

 結が振り向くと、一人の女の子が何度も頭を下げていた。

 必死で何度も上半身を上げ下げしているところから、その女の子は謝っている、と結は気づいたのだ。

「私は、怪我していませんので、もう頭を上げてください」

 落ちつかせるように、ゆっくりと話すと、女の子の上半身が上の方で止まった。結がぶつかった事に怒ってない、分かってくれたらしい。 

 その女の子は、結と同じ私服姿だ。裾の長いこげ茶のスカートと、上に黒色のパーカーを着ていたが、パーカーのフードを被っているため、髪型は分からなかった。

 顔もずっと俯いたまま、両手でエコバックを持っている。経済的負担を和らげるため鞄は自由なので、それでこの塾に通っているのだろう。

「お怪我は、ないですか?」

 心配する結へ、女の子は俯いたまま左右に頭を振った。どうやらお互い怪我はなかったらしい。

「そうですか、良かったです」

 結が安心したのか、女の子は一礼をすると、足早に受付へと去っていったのだ。

(風邪でしょうか…?)

 女の子が一言も喋らなった理由を、結は頭の中でそう考えていた。

「京川理香子さんですね、少しお待ちください」

 受付で、担当の女性が女の子から渡されたカードを受け取る。このカードには、塾生の個人情報が入っておりそれで塾に居る時の記録が確認できるのだ。

「京川さん…!?」

 少し離れた場所で、受付の女性から渡された何かの書類を入れているクリアファイルを見て、さらに驚いた。

 そのクリアファイルに書かれた名前は『京川 理香子』だったからだ。

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