第160話 成績を上げる意外な方法 その⑪

「お嬢さんはさぼってなんかいません!過労で倒れたのです」

 それを見た結は、この人が京川の父親だと気づいた。

「理香子、過労だなんて、ちょっと疲れただけでしょう?」

 男の隣で、困ったように言ってきた同じくらいの事務員の制服を着た女性は、京川の母親だろう。娘を庇うより、父親の方の肩を持っているように見える。

「…先生、もう大丈夫です。…塾に、行かないと」

 京川はそう言いながらベッドから出ようとした。

「いいえ、京川さん。あなたはゆっくり休まないと。このままでは、病気になってしまうわ」

 生徒の健康を守る保健の先生として見逃すわけにはいかない。浅野先生は、今日一日ゆっくり休むように言い切った。

「余計な口出ししないでいただきませんか?」 

 娘に今日一日勉強するな、と言いたげな浅野先生に父親は苛立つ。

「そうよ、理香子あなたはたくさん勉強して、いい大学に入らないと」

 こんな事で倒れないでとちょうだい、と言いたそうな母親を見て、浅野先生は相手の目を見てはっきりと言った。

「あなた方は子供の心と体より、成績の方が大事なのですか!?」

 娘をないがしろにしている両親へ、浅野先生は本来もっと大事にしなければならないものがるはすだ、と訴えた。

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