第155話 成績を上げる意外な方法 その⑥

 次の日の昼休み、結は図書委員の仕事をしていた。

 この高校には、学校司書が数名いる。それゆえ図書委員の仕事は司書の手伝いがほとんどだ。

 返却された本を、専用の台車に乗せて本棚まで運んでいく。結は丁寧に本を指定された本棚へ一冊ずつ戻していった。

「あれは…?」

 ほとんど戻した後、結の目が止まった。奥の机に座っていた生徒が気になったからだ。

 机の上には、何冊もの参考書が積まれている。さらに問題集も数冊あり、それは生徒の周りに置かれていた。

 それの持ち主であろう生徒が、机の上で突っ伏していたのだ。手にシャープペンシルを持ったまま、まるで力尽きたようにぐったりとしていた。

「…すみません」

 台車を通路の端に止め、速足で近づいた結はその生徒へ小声で声をかける。ボサボサな長い黒髪を、無造作に背中へと下ろした女生徒だ。

 声をかけても返事がなかったことから、結は肩へ軽く手をのせて数回揺らした。

「……!」

 その感触が伝わったのか、女生徒が勢いよく上半身を起こした!

「あ、あの…」

「……!!ね、寝てないから!!」

 必死に言い訳していた女生徒は、結の顔を見てはっとした。

「…ご、ごめんなさい!!」

「いえ。眠ったからとはいえ、誰も責めませんから」

 結が言った通り、もし眠ってしまったとしても追い出されるわけではなかった。この学校は、保健室へいくほどではなくが、ゆっくり休みたい場合でも図書室を利用してもいい決まりになっている。

 心に安らぎを与える場所。この学校では図書室もその一つになっているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る