第148話 番外編・校外学習での出来事 中編

「おやつを持ってきたのなら、無理に食べなくていんじゃない?」

 トイレの方から、華からのお勧めに対しあまり良い印象を持ってなさそうな声がして。

「根室さん!」

 トイレから出てきたのは、結達の同級生である根室だ。ちなみに、竹町は結達とは別のクラスである。

「買い食いなら、放課後でもできるでしょ?どうしてわざわざ校外学習の最中に買うのかしら?」

 華達がここの売店でアイスを買ったことに気づいた根室は、不機嫌な顔で嫌味を言ってきた。

「先生方は、ここでお菓子やジュースを購入してもいい、と言っていました。さすがにアイスは途中で解けてしまいますから」

 事前に確かめておいた事を、結は説明した。

「あなた達も、買えないなら遠慮なく言ったほうがいいわよ。お金持ちな成宮さんに付き合っていたら、お小遣いが足りなくなってしまうから」

 他の同級生達へ、根室はいつもの調子でまた言い始めた。欲しい物があったら見境なく買ってしまう華と一緒に居たら、すぐにお金が無くなってしまう、というのだ。

「それなら私が払うわよ」

 華は『お金あるから当然』という顔でそう言ったが、

「いえ、それは止めておいたほうがいいです。華さんは善意で行ったとしても、悪い方に誤解されてしまいますから」

 結はそれに対して、すぐに反対した。華と一緒に居るのはいつもおごってもらえるなど、周りにそう誤解されてしまうのを防ぐためだ。

「失礼ね!」

「私達は、成宮さんがお金持ちだから一緒に居るわけじゃないよ!」

 結の言葉を聞いた後、他の女生徒達は一斉に反論した。

「あ、あの根室さん…」

 今まで成り行きを見ていた竹町が、おずおずと声をかけた。

「ん?何?」

 根室の顔から、華へ向けていた不機嫌さが急になくなった。

 結は特に驚いてなかったが、華達は(こんな声を出せるんだ!?)と、内心驚いてしまったのだ。

「こないだ、藍ちゃんが成宮さんと霧島さんからのお土産を分けてくれたの。そのお菓子が、根室さんがくれたって、聞いて…」

 連休明け、華と結は旅行のお土産を同級生達へ配った。

 だが、別のクラスである竹町の分を、華は想定していなかったのだ。

 しかし、根室が自分の分を譲ったことから、竹町は一緒にお土産のお菓子を食べられた。中間テストがあったため、すぐにそのお礼を言えなかったのだ。

「ありがとうございました」

 竹町は、根室へ頭を下げた。

「どういたしまして。良かったわね、一緒にお菓子を食べることができて」

 竹町へ向けたその言葉は、今まで聞いたことがないくらいに落ち着いていた。嫌味ではない根室からの言葉を聞いたのは、これが初めてかもしれない。

「杉村さんも良かったわね。また、仲良くなれて」

 同じように穏やかな言葉をかけると、根室は足早にそこから去っていった。

「嫌味を言わない根室さん、初めて見た…」

 女生徒の一人が『信じられない…』という顔でそう呟いた。


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