第112話 傷つける友人、助ける他人その50

 芸術科の生徒達は、あの噂を知らなかったのか普通に接してくれた。絵の事で話ができたり、と楽しい日が続いたのだ。

 だが今は、再び絶望の日々が始まろうとしている。それを防ぐために、こんな事をしたのに。

「竹町さん」

 結は、竹町の傍まで近づくと、ゆっくりとしゃがんで竹町の顔を見た。

「私は、信じます。杉村さんが庇った貴女を」

「…え!?」

 非難ではないその言葉に、竹町は半泣きな顔を上げた。 

「あのトリックでも、杉村さんの靴を汚すことは出来ました。だけど、靴は汚れず、それどころか汚れないように手前へ置かれていました。もし貴女がそうしたのなら、本当は靴を汚したくない、という意思があるように思えるのです」

 まさか、そんな事を言ってもらえるとは思わなかった。竹町の顔から出ていた涙はいったん止まったのだ。

「もしよろしかったら、訳を話してくれませんか?何か事情があるのなら、もしかしたら力になれるかもしれません」

 結は、竹町を責めるどころか助けようとしているのだ。あの状況から竹町の本意に気づき、救いの手を差し伸べようとしている。

「…いいの?」

 恐る恐る、助けを求めてみた。今でも周りへ助けを求めることが出来ないけど、やたらと責めずにまず話を聞こうとする結へ、すべてを話そうと思えたのだ。

「もちろんです。もし私一人で手に負えないようでしたら、成宮グループの力もお借りします。杉村さんのように、貴女を助けられるように手を尽くします」

 はっきりと、迷いすらない結の宣言に、竹町の目から苦しみを洗い流す涙が零れたのだ。

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