第108話 傷つける友人、助ける他人 その46

「だ、大丈夫…!」

 結なら、強引に聞かれることなく誤魔化せる。そう思った竹町はその場から立ち去ろうとしたが、

「そうですか、それは良かったです」

 心からホッとしていた結に、竹町も内心安堵していた。

「霧島さんも、今から帰るところ…?」

 そう聞いた後、竹町は結が鞄を持っていなかったことに気づいた。

「いえ、ちょっと気になる事があったので」

 だが結はやんわりと否定する。

「な、何を…?」

 両手を胸に当てたまま、竹町は動揺を悟られないように聞いてみた。

「杉村さんの下駄箱の中です」

「―!?」

 顔に出てしまったほど衝撃を受けたが、一足早く対策できた。だから、もう大丈夫。

「なぜ下駄箱をあんな風に汚したのか、ずっと気になっていたのです。汚すなら、もっと他に方法があったはずなのに」

「…ど、どんな?」

「例えば、隠し持っていた容器で直接黒い水をかけるとか」

 確かに、黒い液体で汚したいのなら、たいていはそんな方法を取るだろう。

「ですが、今回はわざわざ奥の方を汚していました。すぐに逃げるのなら、手前にかけたほうが素早く手を引っ込められるのに」

 結からの推論に、竹町は黙ったままだ。

「実は、スマホで下駄箱の中を撮影した時、汚れの上の方に変わったものを見つけたのです」

 そう言って、結はスマホを竹町へと見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る