第106話 傷つける友人、助ける他人 その㊹

「それにしてもびっくりしたよ、さやちゃんがこの学校にいたなんて」 

 中学三年生の最後の方で不登校になった友人へ、杉村は改めてそう言った。

「…不登校になった後、フリースクールに通っていたの。そこでこの高校なら不登校の子も受け入れてくれるし、もしまた何かあっても、特別室で授業を受けられるから

この高校に入ろうって決めたの」

 この高校の案内に載っていた特別室の写真を見た時、「スケッチしたい」と思ったのだ。それで竹町はこの高校に入る決心とした。

「実際見てみて、素敵な建物だなあ、と思って。それで美術部に入って描いてみたの」

「それがあの絵だったのですね。見させていただきましたが、とても上手だと思いました」

 結からの誉め言葉に、杉村は笑顔となる。それを見た杉村は(さやちゃんが笑った顔、久しぶりに見た)と思ったのだ。

 お正月が明け、終野の様子がおかしくなった後、急に竹町の悪い噂が流れ始めた。杉村はかばっていたが、なぜか竹町が否定しなかったので、杉村も疑念を抱き始め

てしまったのだ。

 しかし、竹町が不登校になった後、中学の担任の先生からあの噂は否定された。噂についてのはっきりとした証拠が出なかったからだ。

 それでも竹町は最後まで、中学校に来なかった。その間、終野は杉村に執着し続ていたのだった。

「藍ちゃん、さっき庇ってくれ、ありがとう」

 結も庇ってくれたが、はっきりと否定してくれたのは杉村だ。友人が無実だと信じてくれたのが心から嬉しかった。

「ううん、中学の頃、悪い噂が流れても庇いきれなかったし、不登校になった後、何もできなかったから」

 あの時の後悔が、杉村の心に蘇る。友達なのに、終野が邪魔をしていたとはいえ、何か出来たのではないか、と。

「あれは、私が何も言わなかったから。藍ちゃんが気にすることじゃないよ」

 竹町は、無力だった自分を責める杉村へそう声をかけた。

「その頃から、終野さんが粘着していたのでしょう?でも、終野さんはもう近づいてこないから、安心して!」

 今だに終野が二人の心へ影を落とそうとする。それに対し華が、二人の心へ光を照らして影を追い払おうと明るく励ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る