第100話 傷つける友人、助ける他人 その㊳

「…もう、乾いているようね」

 奥の黒い汚れを人差し指で軽く触った冬沢先生は、その指先を見て確認するように呟いた。

「これは黒い絵の具みたい。他の先生達にも話して、詳しく調べてみるわ」

 それを聞いた杉村は「よろしくお願いします」と頭を下げる。まさか、こんなショッキングな出来事が起こるとは夢にも思わなかったのだ。

「真相は、私達教師が明らかにします!この事で、怪しいからとはいえ、その人を疑って糾弾しないように!」

 周りに居た他の生徒達へ、冬沢先生はそう宣言した。

「霧島さん、貴女この中の写真を撮っていたそうね。その画像を渡してくれる?」

 その後、冬沢先生はジャージのポケットからスマホを出すと、結へそう声をかけた。

「はい」

 結はスマホを操作して、画像をすべて転送した。

「霧島さん、写真ありがとう。後は、私達に任せなさい」

 そう言うと、冬沢先生は電話をかけ始めた。

「結、写真すべて渡しちゃったの?」

 そう聞いてきた華へ、結は「ええ」と答える。華だけでなく流も「何か分かると思ったのに~」と残念がった。

 それに対し満は、冬沢先生がそう指示してきたのは結が巻き込まれないようにするためでは、と思った。

 もし結がその写真で何か手掛かりを掴んでいた場合、その写真をすべて教師へ渡したとすれば、犯人が結を襲う可能性がだいぶ減るからだ。

「…汚れてなくて、本当に良かったあ」

 下駄箱が黒く汚れてしまったが、スニーカーが黒くなってなかったこと方が、杉村にとって不幸中の幸いだった。 

   

 教室に戻ってきた杉村達は、早速この事件についていろいろと聞かれ始めた。

 スニーカーは汚れてなかった、と聞いた生徒達は声を揃えて「よかった」と言ってくれた。皆、杉村を心配してくれたのだ。

「でも、いったい誰が…?嫌がらせにしては、微妙だよなあ…」

 流からの疑問に、思わず華達は考え込んでしまった。

下駄箱は教師達が調べた後に拭き掃除をすれば綺麗になるが、それでも嫌な気分になってしまう。

「成宮さんがやたらとかまっているからじゃない?」

 急に、一つの仮説が華達へと投げつけられた。

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