第98話 傷つける友人、助ける他人 その㊱
玄関の下駄箱から、ざわざわとした話し声が聞こえてきた。
一年生の靴が置いてある場所に、数人の生徒が集まっていた。ある生徒の靴が置いてある場所の前で、不安と疑問が混ざった顔をしている。
「すみません!」
後ろから声をかけられ、その振り向くと生徒達は思わず少し下がった。一人の女生徒が、息を切らして走ってきたからだ。
「…何これ!?」
その女生徒は、下駄箱を覗いた瞬間に悲鳴を上げた。
下駄箱の奥が、黒くなっていたのだ。まるで、黒い液体を上から垂らして放置したみたいに。
「―靴は!?」
奥が汚れていたことを見て、手前に置いてある白いスニーカーを急いで確認する。
「…スニーカーは、汚れてなさそうだけど?」
近くにいた生徒の一人が、そう言いながら指を指す。よく見てみると、下駄箱と同じ白色のスニーカーが、あまり汚れていない状態で下駄箱から少しはみ出していたのだ。
「…よかったあ!!」
スニーカーを取り出し、汚れていないか確認した杉村は思わずスニーカーを抱きしめながら安堵した。
黒い汚れは下駄箱の奥に広がっていた。だが、靴は手前の方に置かれていたことから、汚れていた場所からわずかに離れていたのだ。
それで、靴には被害はなかった。それでも、下駄箱の中がこんなに汚された事に対して杉村は青ざめていた。
「杉村さん」
息を切らしながら、結が杉村の元へ駆け寄った。
「…中を、見させていただいてもいいですか?」
何度も呼吸しながら、結は杉村へそう聞いてくる。
「…う、うん」
落ち着いた結は「ありがとうございます」と礼を言うと、まず下駄箱の中を覗き込んだ。
「…汚れているのは、奥の、下の方だけですね」
下駄箱の中は、上も白色だ。これは『汚れを目立たせることで、掃除がしやすいようにするため』と説明されている。
「撮影させていただきます」
制服のポケットからスマホを取り出すと、奥の方から写真を撮り始めた。杉村は、そんな結の様子を無言で見つめていた。
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