第96話 傷つける友人、助ける他人 その㉞
カーテンの隙間から見えた『藍ちゃん』は、別人のように変貌していた。
お揃いの長さだった髪はバッサリと短くなっており、前に作ってあげた『大親友の証』であるリボンは付けてなかった。
服装も、似合っていない短パン姿だ。上着は袖の無い薄手のベストで、その下に長袖のTシャツを着ていたのだ。
「なんで…!?」
靴もお揃いの革靴ではなく、白いスニーカーだ。その真っ白なスニーカーには、汚れなんか一つもない。
「なんで!?なんでなの!?」
混乱のあまり、何回も窓を叩きつける。その音に気づいたのか、喫茶店の中に居た別の生徒達が近づいて来た。
「―!?」
本能的に『まずい!?』と感じたのか、終野は慌ててそこから逃げ出す。喫茶店のドアが開いた時には、終野はもうそこに居なかった。
「…今、終野の声がしなかったか?」
ドアを開けた満が、周りを見回しながら呟く。
「…確かに、声が似てたな」
窓の方を見た流も、そう答えていた。
「終野さんは、街中とは言えボランティア活動をしているから、そう簡単に来れないと思うけど…」
ジュースが入ったグラスを片手に、華がそう呟いた。
それらを聞いた杉村が、急に不安な顔になる。もしかしたら、さっきまでこの近くまで来ていたかもしれないのだ。
「接近禁止命令が出ていますから、すぐに対処できますよ」
ケーキがのっている皿を近くのテーブルに置いた結が、杉村を安心させるようにそう話しかけた。
「どうしよう…、このままじゃ…!」
夕方、ボランティア活動から解放され、自室に戻った終野は額から何粒の汗がにじんでいた。
「このままじゃ…、藍ちゃんが遠くへ行っちゃう…!」
今年のお正月に、中学時代の親友が急にいなくなった事を思い出した終野は、不安で胸が押しつぶされそうになった。
「…これもみんな、あの霧島結と成宮華のせい!なんとし
ても藍ちゃんを引き留めなくっちゃ!」
あの二人は、『成宮グループ』という権力で守られている。手を出せば、さらに制裁をされるだろう。
なら、藍ちゃんのほうから何とかしないと…。そう思った終野は、あの後ボランティア活動を再びしていた時に偶然、街中の美術館から出てきた時に再会したある人物を思い出していた。
「…そーだわ!」
まだ連絡先は残っていた。そして、こちらが有利に動かせる情報も。
しばらく考え込んでいた終野は、スマホの電源を入れ、早速メッセージを送りつけたのだった。
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