第91話 傷つける友人、助ける他人 その㉙
教室には、本棚にたくさんの本が並べられていたが、どれも今、読む気などない。
『藍ちゃん』とお喋りしたい。それがいまの終野の望みだった。
「…出られないなんて、牢獄と同じじゃない」
窓は中から開けられないように、外から鍵が掛けられていた。
トイレの窓もダメだったし、職員室の前を通らなければならないから、見つからないように出るのは無理。しかもあちこちに警備用のカメラも仕掛けられていたので、脱出は不可能だった。
ふと、顔を横へ向けた時、一人の女生徒が向こう側を横切ろうとしていた。一瞬「藍ちゃん!?」と思ったが、別の女生徒だった。
片手にスケッチブックを持っており、窓の端ギリギリの位置で座ると、スケッチブックを広げて絵を描き始めた。
「…あいつは!?」
その女生徒を見て、終野は思わず立ち上がった。
五時限目の授業は、芸術だった。望ヶ丘高校の一年生はこの時間で美術・書道・音楽を順番に学び、二年生になったらその内の一つを選んでそれぞれ別々に受ける、という取り組みになっている。
そして今日の授業の内容は、美術だ。終わりのチャイムが鳴り、美術室から生徒達が移動していく。
「杉村さん、英会話部へ入ることになったの?」
「うん!終野さんに無理やり一緒に手芸部へと入れられたけど、昨日部活の変更が認められたから!」
華が一緒に歩いている杉村へ、そう聞き返す。杉村は解放された喜びをあふれながら話を続けた。
華達から一歩後ろに居た結は、ふと美術室の壁に目を奪われた。美術部に入部した一年生達の絵が飾られていたからだ。
下の方の、左端に飾られていた絵はログハウスみたいな平屋を描いた絵だ。題名を見てみると『特別室』と書かれている。
さらにその下には『竹町さやか』と名前があった。その名を、結は聞いたことがあったのだ。
(確か…、杉村さんと中学時代まで仲良くされていた方の名前でしたね…)
「結、どうしたのー?」
華に呼ばれ、結はいったんそこから離れたのだった。
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