第90話 傷つける友人、助ける他人 その㉘
一方、終野は昨日とは打って変わって、最悪な一日の始まりだった。
三十分以上早く起こされて、タクシーで無理やり学校まで連れてこられたのだ。
このタクシーは、成宮グループから手配されたもので、「今日から学校の送り迎えを頼まれました」と言われた。
運転手は元女子プロレスラーで、背の高い三十代半ばの女性だ。運転手の制服を、現役の頃から贅肉などない体格でバッチリ着こなしていた。
それで抵抗できずに、タクシーに乗せられた終野を、両親は心配そうな顔で見送った。親としては、会社が新しく始める福利のモニターとしてタクシー代まで負担してくれるのは心苦しかった。
もうこれ以上、周りに迷惑をかけないでほしい。
娘が小学生の頃、ブラック会社に勤めていたとはいえ娘に寂しい思いをさせていたのが今の性格になってしまった原因だと気づき始めていた両親は(これがきっかけで更生してほしい)と思った。
まだ他の生徒があまり登校していない時間に、終野は校門の前でタクシーから解放された。
すると今度は、別の教師が終野を出迎えたのだ。二十代のおっとりとした雰囲気の女性で、白いスーツを着ていた。
その教師は、『特別室の担任』だと自己紹介した。普段はスクールカウンセラーとして校舎に勤務しているが、特別室へ生徒が来た場合、そこの担任になるのだ。
教員免許も持っているので、授業も出来る。にこやかにそう言うと、まだ事態を理解したくなかった終野と一緒に特別室へ歩き始めた。
特別室は、校舎の隣に建てられた小さな小屋だ。
ログハウスみたいな造りになっており、平屋になっている。手入れされているのか、周りにゴミ一つない。
中には、十人ぐらい入れる教室と、職員用の部屋にトイレ。そして残り半分は体育館みたいに運動できる場所になっていた。
渋々入ると、教室に机と椅子が一人分置かれていた。まるで、終野を出迎えるように。
「授業は、私が一人で担当するわ。体育は別の先生が来てくれるから」
朝からずっと一緒に居ることで、まずその生徒について良く知ろうとする。そしてそこから、これからどうやって指導するのか考える。
これが望ヶ丘高校の、特別室を使っての対策だった。
ようやく午前中の授業が終わったが、お昼も一人で食べることになった。
教師はお昼のチャイムが鳴った後、職員用の部屋へと移動していった。一人で昼食を食べながら、リモートワークで打ち合わせをしているだろう。
「…もう、なんでよう」
お弁当を一人でもそもそと食べ終わった後、終野は机に突っ伏していた。
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