第86話 傷つける友人、助ける他人 その㉔
「貴女が、茶奈さんですね」
両親の反対側に、初老の男性が座っていた。かなりいいスーツを着こなしている、礼儀正しくて穏やかそうな紳士だ。
「そーだけど?」
誰?このおじさん?と言わんばかりの終野へ、青ざめた父親が答える。
「…この人は、成宮グループの弁護士だ」
「はあっ!?」
丁寧に挨拶をした男性のスーツには、金色のバッジ付けてあった。
「お嬢様からの依頼で、貴女へ杉村藍さんへの接近禁止命令と、連絡禁止命令を告げるために、ここへ参りました」
「…ええーっ!!?」
さらに驚いていた終野に、弁護士は追い打ちをかける用件を話し始めた。
それから少し時間が経った後、自室に戻った終野は、ベッドの上で怒りと悲しみのあまり何度も枕を叩いていた。
「なんでよ!なんでなのよーっ!?」
弁護士から『藍ちゃんに近づいてはダメ!』という事を言われた時、当然泣きわめいた。だが、それでも撤回されなかったのだ。
理由の一つに『藍ちゃん』の親からも依頼されたからだ。ここへ来る前、弁護士は『藍ちゃん』の両親にも会っており、娘が『大の仲良しだと思っていた友人』に酷く苦しんでいた事を華達から知らされた後、杉村の両親もその場で依頼したのだ。
『藍ちゃん』の両親も、自分の両親と同じく成宮グループの系列の会社で働いている。会社は別々だが、親会社の社長の娘から弁護士を通してそう依頼されたので、両方の親はそれに承諾せざる言えなかった。
しかも事情を聞いた社長が『もし子供がどうしても言う事を聞かないのなら、お前たち両親を県外の子会社へ異動させる!』と言ってきたのだ。
大事な娘の従姉妹を怪我させて、しかも謝らなかったのが許せない!と、社長はかなり怒っていた。
それにより、終野の両親は娘へ「しばらく我慢して」と言うしかなかった。
もし引っ越しとなれば、終野は転校しなければならない。それならまだ、同じ教室へ入れなくても、同じ学校へ行けるほうがまだマシだ、と思うしかなかったのだ。
スマホは取り上げられなかったが、ラインだけでなく、電話すらも出来ない。もう、着信拒否されていたのだ。
お互いSNSはやってないので、これから会わない時はどうしているのかすら、もう分からなくなってしまった。
「あいつら…、許さないんだからー!!」
逆恨みの絶叫を、部屋の中へと響き渡らせた。
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