第85話 傷つける友人、助ける他人 その㉓

 終野は、不機嫌な態度を周りに隠さないまま、帰り道を歩いていた。

 学校の職員室で、信じられないことを言われたのだ。それは『明日から、特別室で授業を受ける』事だ。

 しかも、これからずうっと一人で!大好きな『藍ちゃん』とは離れ離れになってしまうなんてありえないことだ!

 すぐに担任の春山先生へ猛抗議をしたが、そうなった理由が「杉村に、朝から寝る時まで執着しているから」と言われてしまったのだ。

 終野にしてみれば「大親友だからそれくらい当然!」なのだが、杉村は「…もう限界。離れて一人になりたい」と 言わんばかりに心底疲れ果てていた。昼休みに早退して、病院で点滴をうけたくらいに。

 それを知った終野は「病院へ行く!」と出て行こうとしたが、春山先生は「先ほど『退院した』と連絡があった」

と引き留めた。

 しかも、この後に「こうなった理由を、両親へ連絡する」と言われたのだ。

 さらに、もう一つの理由が「成宮家の人間に怪我をさせたから」だと知って、終野はますます不愉快になった。

 そう、霧島結と、成宮華。この二人が午前中から『藍ちゃん』との仲を邪魔しているのだ。きっと、先生にそう仕向けたのも成宮華に違いない!

 自宅に着いた終野は、少しでも憂さ晴らしするように乱暴にドアを開けた。

 玄関に脱いだ靴はそのままにして、まず自室へ行こうとする。廊下の上でも、不機嫌さをまき散らしていた。

「茶奈!こっちへ来なさい!」

 リビングを通り過ぎようとしたら、急に父親の声がした。

「…あれ!?」

 リビングを覗いた終野は、不機嫌な気持ちが吹っ飛んでいた。まだ会社に居るはずの両親が、青い顔をして座っていたからだ。

 リビングの真ん中のテーブルでうなだれていたのは、三十代後半のスーツ姿の夫婦だ。会社から帰ってきた直後だったのか、両親はスーツ姿のままだった。

「どーしたの!?」

 こんなにも早く帰ってきた両親に、終野は驚きを隠せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る