第84話 傷つける友人、助ける他人 その㉒

「藍!」

 温かい紅茶で緊張がほぐれたのか、華と杉村はいつしか談笑していた。

「華さん」

 杉村を呼ぶ声に気づいたのは、聞き役に徹していた結だ。

 結は華へ、スーツ姿の中年の男女が、慌ててこっちへ歩いてくることを教えた。

「お父さん!お母さん!」

 その男女を見た杉村が、驚いた顔になる。

「藍、お前が学校で倒れたと聞いたが…、大丈夫か!?」

 父親が、心配と戸惑いが混ざった声をかける。

「うん、成宮さんの系列の病院で点滴をうけたから」

 昼休みの後、華はまず杉村を病院へ連れて行こうと決めた。その後、杉村は裏口から、華が呼んだ系列会社のタクシーで病院へと極秘に連れて行ったのだ。

 そこで過労と診断され、点滴を受けていた。そのおかげで、杉村は歩けるまで回復したのだ。

「まず、お掛けになってください」

 結が杉村の両親へ、座るように促した。

「…あ、はい!」

 向かい側の通路側から母親と父親が席に着く。

 すぐにウエイトレスが、二人分のお冷を持ってきた。父親はそれを手に取り、一気に飲み干したのだ。

「お嬢様方、娘がお世話になりました…!!」

 お冷に手を伸ばす前に、母親が手をついて頭を下げた。父親も、同じく深々と頭を下げる。

「ううん、私達は当たり前な事をしただけよ。困っている人がいたら助けるのは、成宮家の者として当然よ」

 従姉妹の結も成宮家の一員として認めてくれている両親へ、華は誇りを持ってそう答えた。

「まずは、頭を上げてください。実は、杉村さんの事で話があるのです」

 頭を上げた杉村の両親へ、結は学校で起きた事を話し始めた。

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