第80話 傷つける友人、助ける他人 その⑱

「何であんた達がここに居るの!?」

 体育の時、大声を上げた日野沢満と、いつも一緒に居る風山流へ、終野はイライラをぶつけるように言った。

「いや、俺たち外でサッカーをしに来たから」

 そう答えた流の手には、学校の備品であるサッカーボールがある。二人とも、学校の敷地内ということもあって体育の授業で履いていた外履きだった。

「別にいいでしょ!!」

 答える義務なんてない!と終野は怒鳴り返す。

「もしかして…、杉村に会いに来たのか?」

「そうなのよ!なのに先生が入れてくれないのよ!!」

 満からの質問に、終野は一気に勢いよく叫んだ。

「それって、ゆっくり休ませろ、ってことだろ?終野、前から思っていたけど、お前、杉村に執着しすぎ」

 流が呆れた声を出す。    

「友達なんだから、おかしくないでしょう!!」

「いや、友達だからっていつも一緒にいなくてもいい、と思う。一人の時間があった方が、そんなに疲れないし」

 満は落ち着いた声で、終野へそう諭した。

「とにかく、今は杉村を休ませてやれ。友達なら、それくらいできるだろ?」

 さらにそう言った満の態度がますます気に入らなかったのか、終野はイライラと不満が混ざった顔で睨みつけた。

「どうしたの?」

 突然窓が開き、保健室の先生の声がした。

「あー、なんか終野が窓を覗こうとしていたみたいので」

 窓の傍に立っていた保健室の先生へ、流がそう説明する。

「杉村さんは今、眠っているの。だから一緒にお弁当を食べる事は出来ないわ」

 駄々をこねている子供へ注意するような口調で、保健室の先生は終野へ再度告げた。

「それにここは飲食禁止よ。お弁当は教室か、または食堂のフリースペースで食べなさい」

「…っ!!」

 終野の足元には、杉村と同じ柄のランチバックが置かれていた。もしかしたら、ここで弁当を食べるつもりだったのだろう。

「何よ!みんなして邪魔して!」

 ランチバックを掴むと、終野は怒り心頭な顔で、その場から早歩きで離れた。  

 終野が校舎へ入っていったのを見届けた保健室の先生が「ふう…」とため息をつく。終野のしつこさに少しまいっていたようだ。

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