第74話 傷つける友人、助ける他人 その⑫
「あら、あなた達」
二十代後半の、白衣を着たポニーテールの女性が結達を見て声をかけた。
「すみません、杉山さんの様子はどうですか?」
奥の机で座って、パソコンで作業していた保健室の先生は椅子から立つと結達への方へとゆっくり歩いてくる。
「さっき目を覚ましたところよ」
意識が戻った、と知り結達は安心した。
「終野さんは?」
周りを数回きょろきょろ見回していた華が、そう質問してきた。
「ああ、あの子ね。着替えと、お弁当は受け取ったけど、別の場所で待っているように伝えたわ」
それを聞いた結と安田は思わず「どうやって…!?」と口にしてしまった。絶対『テコでも動かない!』という感じで、
『ここに居座ってやる!』というくらいの粘着ぶりを見せると思っていたのに。
「話に聞いていたけど、よほどの執着ぶりね。説得するのに一苦労だったわ」
さすがに少し疲れたのか、保健室の先生は小さくため息をつく。
「………」
「予想以上に凄そうね」
保健室の先生の苦労が伝わったのか、無言の結と安田の隣に居た華がついそう口にする。
「あの、今から杉村さんに会えますか?」
安田が、ちょっと遠慮がちに聞いてみた。もしかしたらまだそっとしといた方がいいかもしれない。
「あなた達なら、会わせてもいいわ。こちらへいらっしゃい」
会う許可が出たことに、三人はほっとした。
奥の部屋は、人一人が通れるくらいのドアがついていた。
人に会いたくない、会わせたくない時などに使われる個室だ。ゆっくり休めるように、ベッドも置かれている。
保健室の先生が鍵を開けると、ドアが静かに開いた。まず保健室の先生が先に入り、何か話しかけていた。
(…終野さんは、いるでしょうか?)
保健室の先生の後ろで待っていた結は、そっと耳を澄ます。
もしかしたら、窓から覗こうとしているかもしれない。すべての窓にはカーテンで目隠しがしてあったが、それには今のところ人影は映っていない。
「入っていいわよ」
保健室の先生が許可を出したので、結達三人は奥の部屋へ入っていった。
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