第72話 傷つける友人、助ける他人 その⑩

 突然の大きな音に、結の朗読が止まる。他の同級生達も、「何事!?」と周りを見回した!

「ごめんなさーい!筆箱落としちゃいましたー!!」

 大きな謝罪の声が、その原因を教えた。終野が、机から落ちた筆箱の中身を拾っていたのだ。

 大き目な金属製の筆箱だったため、落ちた時に派手な音がしたのだ。

「終野、気を付けるんだぞ。霧島、もう一度その文の最初から読み始めてくれ」

 最後のペンを入れ終えた時、まだ下を向いていた終野は一瞬、意地の悪い笑みを浮かべていた。

「先生はまだ悪い事がばれたのに反省していない友人に、こう告げたのです。『悪い事をしたら、やがて自分に返ってくるのだぞ。大事なものも、一瞬でなくなってしまう』と」

「―!?」

 結は冷静なまま、その続きを途切れることなく読み続けたのだ。

「霧島、そこまでだ。よく読み上げた」

 突然の大きな音でも動揺せずに読み上げた結へ、春山先生は褒めるようにそう言った。

「霧島すげー」と、小さな声で流が称賛する。満も、流の声に何度も頷いたのであった。

「次は、終野だ。続きを読むように」

「ええっ!?」

 悔しさで逆ギレしていた終野は、先生からの指名に慌てて教科書を手に持って読み始めたのだった。



 現代文の授業は、お昼を告げるチャイムで終わった。

 春山先生が出ていくと同時に、終野は杉山の鞄から弁当箱を取り出す。そして自分の弁当箱も持つと、教室から駆け出していったのだ。

「終野さん、どこへ行くのかしら?」

 それを見た華が、首をかしげる。

「保健室だと思います。杉村さんと一緒にお昼を食べようと思ったのでしょう」

 水筒と弁当箱を持って、華の近くまで来た結がそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る