第70話 傷つける友人、助ける他人 その⑧

「お前が言うなよ…」

 満の隣で座っていた流が、あきれ顔でツッコミを入れる。

「私は、走れますよ。湿布をしてもらいましたから」

 涼しい顔で、結は先生へそう言った。さらに終野へ心配しなくていい、と伝えるために。

「えー!?でも我慢しているだけじゃないー?霧島さんはいい子ちゃんだから、怪我でサボってもせんせーに怒られないんだよー?」

 結が走るのが苦手なのを知っている終野は、囃し立てるように大声で騒ぐ。

「いえ、私は走れますから」

 何人もの生徒が不快に思う中、結はいつもながらの冷静な対応をして白い線の元まで歩いて行った。

「なに平気で棚を上げまくっているの?霧島さんは平気で走れると言うのに」

 一番端に座っていたボブカットの女生徒が、騒ぐ終野へ注意するような声を出した。

「根室さん!?」

「霧島さんは、あなたの大親友を助けてあげたのよ。それなのに礼を言うどころか、八つ当たりに失礼な発言のお返しばかりでしょ?」

 いつも華や結へ嫌味を言う事が多い根室だが、今は終野の常識を疑う態度について皮肉も入れながら物申す、という感じだ。

「だ!だってー!」

「杉村さんが倒れたのは、あなたが原因かもね?学校に居る間ずうっとくっついて、無理やり自分の世界に閉じ込めているから」

 根室は目を伏せて、ため息をつきそうな顔でそう言った。

「は?何それ?そんなわけないじゃん!!」

 大親友を苦しめている、と指摘されたが、終野はそれにまったく気づいてなどいない。本当に『心から通じ合っている大親友』と思い込んでいるのだ。   

 今回の根室の皮肉に対し、同級生達は根室を非難しなかった。むしろ、今までの終野の態度の悪さがあったから、代わりによく言ってくれた!と思っていたのだ。

 そのやり取りを聞いていた結も、根室の皮肉を聞いてこう推測した。杉村が倒れたのは、終野に粘着された心労が原因である、と。

「位置に着いて!」

 笛の音が聞こえた瞬間、一瞬慌てて、結はすぐに前を向いて走り出した。

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