第66話 傷つける友人、助ける他人 その④
それは、終野が杉村に執着していることだ。
入学式が終わり、初めてこの教室で自己紹介をする際、終野は「藍ちゃんはわたしの大親友でーす!!」と大声で宣言したのだ。
それに対し杉村は「…よろしくお願いします」とか細い声を出していた。その差が気になっていた結は、何度か杉村へ声をかけようとした。
しかし、そのたびに必ず終野が割り込んできて、一方的に杉村と話をさせないように追い払ってくる。他にも何人が話しかけてきても、終野が邪魔するようににらんでくるので今では華以外話しかけてこなくなってしまったのだ。
華がさっきのように毎朝挨拶するが、終野はそのたびに杉村が挨拶させないと言わんばかりな態度をとり続ける。そのため、終野は華と仲がいい一部の同級生から反感を買っていたのだ。
その様子を見ていた根室は、特に何も言わなかった。華に対して何度か嫌味を言っていたが、根室も終野と杉村の歪な関係に気づいていたらしい。
(何とかしないと、いけませんね…)
そろそろ杉村が限界だと思った結は、読んでいた本を閉じて机の中へ仕舞った。
数日後の三時限目の体育は、運動場で短距離走をしていた。
ジャージを着た生徒達は、外側の芝生の上で座って自分の番を待っている。
呼ばれた生徒達は、白い線で区切られた場所で横一列に並んで、体育科の冬沢先生の合図で走り始めた。
ちなみに望ヶ丘高校では、体育科の先生が結達の進学科と、三組の芸術科の体育も担当している。
この高校の体育科は座学の授業も多いため、結達の担任の春山先生も他のクラスへ現代文を教えているのだ。
緊張感を保つためか、冬山先生はあいうえお順ではなく不規則な順番で次に走る生徒を呼び出していた。そのため、先に満が走ることとなったが、満はやる気満々な顔でスタート位置に着いた。
笛の合図で、満は勢いよく走り出す。他の生徒を余裕で引き離し、一位でゴールしたのだった。
(日野沢さんは、やはり速いですね…)
予想通り、満が運動神経が抜群なところを確認した結は、達成感あふれる顔の満から目が離せなかった。
「次は…、杉村!」
満達と入れ替わる感じで、別の生徒達が呼ばれていく。他にも数人呼ばれたが、終野の名は呼ばれなかった。
「せんせー!わたしはー!?」
一緒に走りたい終野は、両腕を上げてアピールする。が、
「今は貴女の番じゃないの。呼ばれるまで大人しく待っていなさい」
三十代前半の、ショートカットが似合う女性の教師は、駄々をこねる小さな子供を諭す言い方で返した。
一部の生徒から笑い声がして、終野は顔が真っ赤になる。
それが恥ずかしさより怒りの方だと、終野から離れて座っていた結は気づいていた。
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