第62話 狙われたお嬢様 その62

 そして結は、勉強だけでなく、いろんな本を読み知識を蓄えた。

 それを実行できるように、実際にやってみて経験も積んだ。

 何が起こってもすぐ対処できるように、普段からこっそり周りを観察し始めた。それが、役にたったことが何度もあった。

 あの時の男の子はそれ以来出会ってない。でも、結はもし二度と会えなくても、それはそれでいい、と思っている。

 一度きりの出会いだったとしても、結の心には深く焼き付いている。アニメや漫画以外に、辛い出来事から結を守ってくれた。

 そしてその男の子がくれた優しさが、今の結を作るきっかけになったのだ。

(…しばらく、様子を見ましょう。もしかしたら、一時的なものかもしれませんし)

 もし満に恋をしたとしたら、今のまま感情に任せたら迷惑がかかるかもしれない。恋愛は、お互い思いやりをもって接するのが大事だから。

 それに、結にとって好きなアニメや漫画の『押し活』も大事だ。もし満の方を優先してしまったら、いろいろと諦めなければならないこともある。

 しかし、それを満のせいにするなど決してやってはいけない!両方とも大事なら、両立させる方法を考えて実行すればいいのだから。

(…私が日野沢さんによく接したら、日野沢さんに迷惑がかかるかもしれませんし)

 自分の好きなキャラが、自分のせいで悪口を言われた。小学生の時に受けたイジメのトラウマが一瞬蘇った。

(…とにかく冷静に!挨拶は今まで通り!困ったらさりげなく手助けする!これで行きます!!)

 何度も深呼吸をし、心を落ち着かせた結は、ひとまずそう結論づけた。



 実は、結はまだ気づいてなかったのだ。

 あの時、助けてくれた男の子は、たまたま通りかかった満だったことを。

 それを満が思い出さなかったのは、結がずっとうつむいたままだったので、当時の結の顔が分からなかったからだ。

 そして、困っている人を助けるのは、満にとって当たり前なことだったから。

 偶然再会した二人がその事に気づくのは、まだまだ時間が必要であった。

 

 

 

『狙われたお嬢様』 ―完―

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