第61話 狙われたお嬢様 その61

「…本当にすみません。華さんが…」

 自分を心配していることから、あんな事をしてしまった華の行いへ、結は従姉妹として改めて謝罪した。

「いいって。もう気にしてないし。だから霧島も変に気にするな」

 律儀に謝ってきた結へ、満は優しく言葉をかける。

「俺は、霧島にすべて任せる!これまで通り、霧島がどうすのか決めればいいし、霧島の自由にしてくれ!」

 華から『結と付き合って』と言われたが、それを決めるのは満自身だ。そして結にも、満と付き合うのか自由に決める 権利はある。

「…はい!」

 すぐに返事は出来なかったが、満が言いたいことは伝わった。結の表情が、そう物語っていた。

「それじゃあ」

 結と話してすっきりした満は、芝生の上を走っていった。

 満が遊歩道を進み、小夜川大橋を渡っていく様子を、結はその場からすっと見続けていた。


 自室へ入った結は、先ほどの河川敷の出来事を思い出した瞬間、一気に顔が赤くなった。

 よく考えたら、夕焼けの河川敷の上で、二人きりで話をするって、青春物の恋愛系イベントだ!告白とは違ったが、それでも似てるかもしれない。

 満の事を考えたら、急に胸がドキドキしてきた!これはもしかして恋!?と思ってしまったほど。

 だが、よく考えるとあそこまで優しくされたからそう思っているだけかもしれない。今まで、現実の男の子に優しくされたのは、小学生の時の一回だけだ。


 アニメ雑誌を買った帰り、運悪くクラスの悪ガキ達に見つかってしまい、馬鹿にされたうえ取り上げられてしまったのだ。

 二人の悪ガキから雑誌を取り返そうにも、はやし立てながら逃げていく悪ガキに追いつけず泣きそうになったその時、

「何してんだ!」

別の道から来た男の子が、すぐにその悪ガキ達から雑誌を取り返してくれたのだ!

 しかも、逆ギレしてきた悪ガキ達を、一人で一喝して黙らせてくれた。人数が多かったにもかかわらず、悪ガキ達はその男の子に言い返せずにその場から逃げて行った。

 雑誌を差し出してくれたその男の子に、結は頭を下げたまま礼を言うのが精いっぱいだった。

 男の子は結に優しい言葉をかけると、名乗らずその場から走っていった。現実で経験したそのヒーロー的な行いは、結の心に強い衝撃を与えたのだ。

 それがきっかけで、結は目の前の困っている人を助けたいと思うようになったのだ。今度は自分が、困っている人を助ける番だ、と。

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