第53話 狙われたお嬢様 その53

 だが、今は落ち込んでいる暇はない。華が居なくなった後急いで満へ口止めをしなければならない。

 満は誠実そうな人柄だと、結は気づいていた。それなら頼み込めば黙ってくれる。

 まずは満の反応を見てみることにした結は、うつむいていた顔を上げた。何が起こっても観察して、冷静に対処できるように。

 結が居る方から見ると、満は後ろ姿だ。ここからは、華の反応でしか満の表情は分からない。

 華は得意げに『日野沢君と結が付き合えばいい』と提案していた。すぐ近くで、結が隠れて聞いていたことに気づかずに。

「…霧島は、成宮からこれを話していい、って言っていたのか…?」

 満から出た言葉には、怒りが少しずつ滲んでいた。

「…え?」

 思わぬ反応に、華は怯む。なぜ、満がそんな顔になったのか分からない、という顔になった。

「霧島は、自分から言っていないだろ。もしかしたら、お前が勝手に喋っているのか?」

 問い詰める満に、華は「…だ、だって結は自分から言わないから…」と答える。

「なんで霧島は自分から言わないのか、考えたことがあるのか!?」

 満は、怒りを込めた一喝を放つ。 

「…好きな物を言ったほうが、仲良くなれるでしょ…?」

 なんで満がこんなに怒っているのか、華はまだ気づかなかった。

「霧島が言わないのは、それで辛い思いをしたからだろ!好きな物を悪く言われた霧島がどんな気持ちなのか、分からなかったのか!?」

 満は、さらに華へそう続ける。

「好きな物を悪く言われたり、それをイジメのネタにされたら、すこく悲しいし傷つくだろ!霧島は、それが辛いから周りに言わないんだ!」

 結の心の傷の深さが分かっていない華に、満は『無神経な行為をした』と怒った。

「…今、なんで成宮に対してちょっと嫌な気になるのか、ようやく分かった。成宮は、自分が正しいと思うことを無理やり相手に押し付けているんだ」

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